ＪＥＷＥＬ

希少部位の誘惑 ページ21

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え……？



「え？」





「食肉市場が日祝日は休みなんだよ、俺
　は毎日仕入れに行ってるから、その日
　の入荷によって新鮮な珍しい部位が手
　に入るわけ」




「珍しい部位？」

「興味あんだろ？」



「あるけど……」




　すると、北山さんの顔が近づいて来て
私の耳元でぴたりと止まり、甘く良い香
りがふわりとした。



「じゃあ来いよ、知らない世界に連れて
　行ってやるから……」




ドクン！

しっ、知らない世界？？？



　その言い方と囁き声、そして彼の表情
の破壊力。めちゃくちゃエ ロくて自分
の顔が熱くなるのがわかる。

　北山さんはそんな私を覗き込むように
してじっと見つめていたけれど





「かーわいい、顔が真っ赤っすよ？」



　私から離れると片方の口角をクイッと
上げて笑い、あっさり部屋の中に入って
しまった。



からかわれた……。
何なの？

もうっ、もうっ、もうっ！
何なの？何なのー！？
　
　かわいいって！？絶対にあなたの方が
年下だから！なんだか悪い男に弄ばれた
あげく、本気になった途端にフラれた気
分になってくる。







――だけど



珍しい部位か……食べたいかも。

結局、部位に釣られるアラサーライター。





　私はいつもオヤジ酒場に行く時は珍し
い部位を頼むのを遠慮していた。


　希少価値が高い部位はある日もあれば
ない日もあるし、女のおひとり様が常連
さんを差し置いて、そういう珍しい部位
を食べることに抵抗があったからだ。

　気にしなければいいのかもしれないけ
れど、オヤジ酒場の招かれざる客となり
そうで振る舞いには気を付けていた。

　だから彼からのその申し出は、正直う
れしかった。

　ラッキーかも。食べたことない部位を
食べ、それを記事にできるじゃない！


　それにやたら肉に熱いあの人に色々教
えてもらえそう……。教え方が怖いけど
このさい仕方ない。





　店で最初に会った時は、熱血で強引で
ぶっきらぼうの怖い人かと思ったけれど
今日は全く印象が違う。意外と柔らかい
人なのかもしれない。


　あのチャラさは何とかしてほしいけれ
どいろんな顔を持っている……？

面白い人。



　ライターとして、ただ彼という人間に
興味が沸いた。これも職業病かな……。

　単純に北山さんをもっと知りたいって
思う。






　思いがけない助っ人に、説明しがたい
感情が私の中に芽生えていた。






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