ＪＥＷＥＬ

料理上手な同期 ページ36

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　それに比べて、パーカーにデニムの私。
髪も後ろで一つに結んだだけだし、コン
ビニに行くだけだったからほぼノーメイ
クだ。あまりにも違いすぎる格好になん
だか急に惨めな気持ちになってきた。



「初めまして、田辺美咲です。宏くんと
　は……」


　彼女はそれだけ言うと何と言っていい
かわからない様子で北山さんを見た。



「もうAちゃんには俺が会社員だった
　時の後輩って話してあるから」




「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


　美咲ちゃんは微笑むと、私にぺこりと
頭を下げ「渉くん、なに作ってるの？」
って言いながらカウンターの中に入って
行った。









「……私、居てもいいのかな？」


何となく部外者の気がして居づらい。


「時間あんなら食ってけば？今日はガツ
　を使って初夏らしいツマミを考えてく
　れることになってんだ」

「ガツかぁ……」



と、こんな時でもガツに釣られる私。



　ガツとは、豚の胃袋のことで独特のコ
リコリとした歯ごたえがクセになる、と
ても美味しい部位だ。

　飲みに行くと私はよく”ガツ刺し”を注
文する。これは生というわけではなく、
軽く湯引きされてスライスしてある。

　”ガツ刺し”の食べ方はいろいろで、生
姜醤油やニンニク醤油、大葉やネギと一
緒に食べたり、様々なバリエーションを
楽しむことができる料理でもある。




「よこーさんの料理はマジでうまいから
　食ってけよ」


　私が躊躇っているのがわかったのか、
北山さんが誘ってくれた。



「俺もさ、ミツのおかげでずいぶんホル
　モン料理のレパートリーが広がったよ」



　「だよな」って横尾さんが同意を求め
視線を合わせる二人。




「よこーさんは料理にはうるさいから。
　ぜってー味には妥協しねーし、だから
　こそ信頼できんだけどね」

「そう？」


　横尾さんはこの時、始めて照れくさそ
うに笑い、簡素な返事だけを返して北山
さんに「どうかな？」ってお皿を渡した。




「”ガツと白髪ねぎのピリ辛あえ”ね」

「うまっ」


　一口パクリと口に入れると、大きく目
を見開いてから笑顔になる北山さん。




「ビールに合うだろ？Aちゃんだっけ
　？食べてみない？美咲も食えよ」


　横尾さんが私たちにもガツの乗ったお
皿を渡してくれた。



「美味しい！いつも渉くんの作る料理は
　絶品だね！」





口を可愛くもぐもぐさせている彼女。







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