ＪＥＷＥＬ

彼のキモチ ページ26

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「まあ、そう言えなくもないな」


太輔は可笑しそう。




「昔はもっとファッションにも気を使っ
　ていたと思うけど、この仕事し始めて
　からお洒落に興味なくなっちゃったん
　だよね。それよりも好きな物を食べて
　お酒飲んでいたほうが幸せっていうか
　……自分でもよくわかんない」

「Aはいっつも全力投球だよな」

「え？」


「いつも戦闘モードの気がしてさ、少し
　肩の力抜いたらどう？知らないうちに
　ストレス溜まってるんじゃない？自虐
　ネタもさ、本の中だけでいいだろ？た
　まにはお洒落して出かければ？」


「……お洒落したいって思わないから」

「本当？」

「……うん」

「この業界は本当に大変だと思うよ。良
　い意味も悪い意味も含めてだけど、小
　説と違って雑誌の記事なんて懸命に書
　いても右から左に流れていっちゃうじ
　ゃん。書いても書いても……むなしく
　なることあると思う。違う？」



「……それは割り切れるから大丈夫。そ
　れに自由気ままに暮らすのが自分にあ
　ってるの」

「そうか……なぁ…、仕事に一生懸命な
　のもいいけど、弱み見せられる相手い
　るのか？」


「……」



正直それを言われると辛い。

弱みを見せられる相手は……



いなかった。



　今まで、甘えたくてもそんな弱い自分
に活を入れて生きてきたから。






　太輔は私を女として意識していないと
思っていたけど、私が太輔を男として意
識した事がないといえば嘘になる。

正直、頼りたくなったことも実はある。

　少しＳっ気のある彼は色気もあり、仕
事もできるし男としても十分魅力的だっ
た。編集者の時から同志のような存在で
今から違う関係になるのは難しいように
思える。


　太輔は私のことをどう思っているんだ
ろう？




「Aは良いライターだよ、仕事のこと
　で困ったことあったら相談しろよ、一
　人で抱え込むな」

「……ありがとう」



「まあ……、ニカは甘いかもしれないけ
　ど俺は厳しいからね。あいつがОＫだ
　しても俺がださないと通らないからな」


そう言うと、太輔はニヤリと笑った。



「太輔が厳しいのわかってるし」






「俺はおまえが心配なんだよ」



「……うん」



　それにしても飴とムチの使い方が上手
すぎるよ……そんなこと言われたら、涙
出そうになっちゃうじゃん。







　この日のモヒートが少し滲んで見えた
ことは、太輔にはナイショだ……。







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