ＪＥＷＥＬ

ハラミにはレモン ページ14

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「ここ飲食店ですよねっ？食欲なくなり
　ます」

「わりぃわりぃ」




　彼はたいして悪びれることもなくチャ
ラーく軽ーく受け流すと、次々に入る注
文を淡々とこなし始めた。



　熱々のハツもプリッとしてめちゃくち
ゃ美味しい。おひとり様焼肉をする時は
まずいほど悲しいことはない。

　会話もなく、ただ自分のためだけにス
トイックに肉を焼き、それがまずかった
ら救いようがないから。









「お姉さん、美味しいでしょ？この店」


　その時、一つ空けて隣に座っている酔
っ払いオヤジが話しかけてきた。



「はい、びっくりしました」

「ここはね、美味いんだよー。あまり知
　られたくないんだよね〜見ない顔だけ
　ど女性一人で焼肉？」


「はぁ、まあ……」



　それからそのオヤジは、無理やり私に
一杯奢ると隣の席に移ろうとしてくる。
一人で焼肉を楽しみたいのにちょっと嫌
かも……、そう思った時だった。







「あーお客さん、そこさぁ彼女のツレが
　後で来るらしいのよ」






「そうなの？」

「は、はい……」




なんと”赤Ｔ男”からの助け舟。


　見渡せば、混んでいる時間なのに私の
隣だけ空いている。ただでさえ狭いカウ
ンター席だ、女性のおひとり様の隣に男
性客が座るのは居心地が悪かろうという
店の配慮なのかもしれない。



ふぅ〜ん……


　客商売だもんね、見かけによらず気が
利く人なんだ……。

　そのオヤジは残念そうに私を見ると、
自分の席におとなしく戻り

　”赤Ｔ男”は、何事もなかったかのよう
に店内に目を配りながら黙々と自分の仕
事をし始めた。






　長居したら悪いよね……、でも最後に
ハラミが食べたいかも……。


私は最後にハラミを注文することにした。




「ハラミはレモン絞ると美味いぜ」



　”赤Ｔ男”はそう言いながら美しくサシ
が入った厚切りのハラミにレモンのカッ
トを添えてくれた。

　ハラミとは、肺を動かす横隔膜の筋肉
だ。肺と付随して出荷されることが多い
ので、見た目的には内臓には見えないが
肉の分類としては内臓肉の扱いとなる。

　上質なハラミは肉厚で適度に霜が入り
濃厚な味わい。やっぱりこういうハラミ
を目の前にするとタレではなく塩で食べ
たくなる。



「脂と旨みが落ちないように肉を立てなが
　らまんべんなく火を通せよ、ミディアム
　レアが俺のおすすめだから」


「はいはいはい、わかってますよ」





もう”赤Ｔ男”の言いなりの私。






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