ある書道家と私 -ki-

8.気になる彼 ページ8

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今日も残業をしちゃったけれど、明日は待ちに待った土曜日。お昼すぎまで寝られると思うと幸せ！
終電で帰り、しんと静まり返った夜道を家に急ぐ。


ん？


お化け屋敷の前にさしかかると、開いている窓からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてきた。
湿ったような苦しそうな咳……
しかもなかなか止まらないみたい。
あの人大丈夫かな……？
気管支炎とか肺炎になっていないと良いんだけれど。

男の１人暮らしだ、きっとろくな物を食べていないんだろうな。悪いけど、彼女がいる感じの人じゃないし、これじゃ治るものも治らないよね……
この前、凄く失礼なことを言ってしまったから彼がとても気になった。






*






次の日、起きたら既にお昼過ぎだった。


あーよく寝たぁ……
真っ暗じゃないと眠れない私。遮光カーテンを開けると、コンビニ袋をぶら下げフラフラとした足取りでお化け屋敷に向かっている男の人を発見。


あ！お化けさん。


やっぱりボサボサ頭にマスク姿で黒いジャージ。
相変わらず咳が酷いみたいで、立ち止まっては
ゴホゴホと咳き込んでいる。
あんなにフラフラしてて大丈夫かなぁ？


あーあ、電柱にぶつかって謝っているけれど、それ、人じゃありませんよ。
彼は電柱にペコリと頭を下げた後、気がついたみたいで、キョロキョロ周りを見回すと、またフラフラと歩いて家の中に入って行った。


ふふふ。見られてないと思ってるかもしれないけど、見ちゃいましたよここから。
面白すぎる。
でも悪い人じゃなさそう……
思わずにやける私。
病院行かないのかなぁ？
なんて考えていたけれど、そうだ！この前のお詫びもかねて、夕方にでも何か持って行ってあげようか……ふとそんな考えが浮かんだ。


結局この日は日頃の疲労が蓄積されていたみたいで、だらだらと家で過ごし、夕方近くなってから買い物に出かけた。









「やっぱり風邪の時にはこれでしょ」



野菜が沢山入ったスープと、うちのお母さんがよく作ってくれた生姜湯を２つのポットに入れて持って行くことにした。
いざ行こうと思うと、やっぱり勇気がいる。
まあ受け取ってもらえなかったら持って帰ってくればいいよね……


ピンポーン


良かった……
インターフォンは鳴るみたい。



『はい』


しばらくすると、男の人の声がした。







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