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2,3cmの壁 ページ5

「だから…」


見えたのは、カッター。


それを私に向けるのではなく、優しく私の手にのせて包ませた。



「俺、今度はちゃんと首を絞めてあげるね。


だから…A先輩は、さっきみたいなキラキラした瞳で、俺の頸動脈きってくれない?



良い響きだよね、心中って。

愛し合う二人が死を選ぶって。
これが究極の愛のカタチなんだよ、きっと!」




嬉々とした声で、スバルは言った。





___…いや、いやいや、まて。





___…頸動脈は、分厚い筋肉組織に覆われて、表皮から深さ2,3cmの場所にある。


体全体の3割の血液を失うと失血死……なら、それまでにどれだけの時間がある?
その間、スバルの苦しそうな顔を見れる気がしないのだ。


怖いもの知らずな私が、これだけは拒否したかった。


私が先端恐怖症なことをスバルは知ってるからこそ、自分にカッターを向けさせたんだろう。


…が、ただ、生々しい肉が斬れる感覚も、私は嫌いだ。それも、2,3cm。

これほどにも2,3cmを厚くも憎くも思ったことはない。





まって、と口に出そうとするけど、お構いなしとでもいうふうに、スバルは私の首に両手を首にかけてきて、ひゅっと喉がなった。



ゆっくりと、その手に力がこもる。



体格も力も、当たり前だけど彼の方が上だ。



私は逃げられない……。




いや、逃げる意識がなかった。





可笑しいシチュエーションだというのに、恐怖心だって感じるのに。



何故か、背筋がゾクゾクし、肌が粟立ち……。


心が歓喜に震えた。



なんて素敵な目で、私を見てくれるのだろう……。

今、スバルは私のことしか見えていない。


学校も、仲間も、アイドルも、家族も……大切な存在をすべて忘れ、私だけをするどく、獣のように、見つめていた。



数分前に打ち付けた頭の痛みは、もうなにも感じられなかでた。

無意識に、ふ、と口角があがると、普段は純粋無垢で綺麗なスバルの瞳が狂気を含んで、更にますます鋭利になる。



「………ね、はやくきってよ。A先輩。」


「…………っん」



ぐ、と、返事が上手くできなくて、でも気にしないようにスバルは笑った。


酸素が途切れる苦しみのなか、口内で歯をカチカチと鳴らし、カッターの柄を強く握った。



一度だけ、刃先を薄くすべらせた。

体がぴくりと動いて、首筋に赤い線がついた。





その途端に目眩を感じてしまい





がむしゃらに、大きくソレを振りかぶった。

有終の美を求めて→←数分前



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作者名:美優 | 作成日時:2018年3月1日 14時

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