勝利は私の手に 2 【潔世一 成り代わり】

62話「右膝前十字靭帯断裂」 ページ26

そして、Aは千切に興味が湧いたように近付き、千切について聞き出す。


「そういえば、千切の武器ってなんなの？ この前、みんなで言い合った時も教えてくれなかったじゃん」


目を見開いた千切は、すぐに視線を落とし、さっきまであぐらをかいていたのに、すぐに体育座りになってしまい、腕で口を隠すように縮こまってしまった。


「だから言ったじゃん。言いたくないんだって」

「…なんで？ 教えてよ！ 私も、手伝えることがあったら手伝うし、チームが勝つためにも知りたいよ、千切の事！」

「…いいんだって、俺の話は…」

「よくないよ、大事なことでしょ？」


ギロっとAを軽く睨むその千切の顔は、悔しそうだった。そして、暫くたって、千切は体育座りを崩し、右膝だけを曲げたまま、右膝を撫でながら喋った。


「右膝前十字靭帯断裂……。一年前、俺は怪我をした。医者には、もう一度同じ箇所をやったら選手生命は危ういって言われた。

だから、怪我が治った今でもまた同じようにプレーできない。俺にもあったんだ、A。お前みたいにすごい武器と、自分のゴールに酔いしれて眠れない夜と、世界一のストライカーを夢見てた瞬間が」


Aには、俯いている千切の表情は長い髪の毛に隠されていてよく見えない。

あの頃の自分を想像しながら、まるで過去のことのように話す千切の瞳には、まるで絶望のようなものが映し出されていた。

そして千切は立ち上がり、Aに背を向けて歩き出す。


「……でも今は、また怪我するのが怖い。あんなに気持ちよかったサッカーと、夢を失うのが怖いんだ。

俺は夢を諦める理由を探しに、青い監獄(ブルーロック)に来た。A、お前のゴールを見て、俺は諦めれる気がするよ」


そう言って千切はモニタールームのドアに近付き、ドアを開ける。それを、Aは急いで立ち上がり、待てよ、と引き止める。


「嘘つけ、千切。他人(ひと)のせいにすんなよ。本当は諦めたくないんでしょ。私だって同じだよ。怖いから…終わりたくないから戦うんだ。失くす覚悟のない人間に、夢なんて掴める訳が無い……！」


千切はAに背を向けるのをやめ、振り返った。だが、その顔には眉間に皺を寄せ、冷たい瞳でAと視線を合わせた。


「……お前に俺の何が分かんだよ」


そう一言残して、千切はまたクルっとAに背を向けて、モニタールームを出ていった。

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