40、邂逅�� ページ44
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Aの小さな手を握って、息を殺しながら走った。
彼女はただ連れて行かれるがままで、何の抵抗のそぶりも見せなかったのが逆に不安になった。
幸運なことに俺たちは組織のビルから無事に脱出することができた。
だけど安心することはできない。
俺はポートマフィア幹部の娘をどさくさに紛れて、攫っているのだから。
「(もっと遠くへ、遠くへ逃げないと…！)」
後先どうしようなんて考える余裕もなかった。
「あのっ、どこまでっ、行くのですかっ」
息が絶え絶えになってしまった彼女が、何とか振り絞って出した言葉が痛かった。
どこまで行けばいいかなんて、俺が知りたいくらいだ。
そして、どうしてここまでも初対面の男を信用して着いていってしまうのかも心配になる。
「ごめん、もう少しだから」
俺はAにそう言うともう一度手を握り直して、今度は少しゆっくりめに走った。
△▼△
「ここは…？」
目的地もなく、ただ本能のままに走って辿り着いたのは、俺がポートマフィアに属する前、父さんと住んでいたあの小さな屋敷。
つまり、俺の実家だ。
何も言わず、Aの手を引いて中へ入った。どうやら鍵はかかっていないままだったらしい。
中は随分と掃除されていなくて空気は埃っぽく、天井の隅には蜘蛛の巣が何個も大きく張り巡らされていた。
自分の家がいつのまにか荒れて見窄らしい光景になっていたのを嘆く暇はない。
まず、2階の自分の部屋まで向かった。
そしてクローゼットの扉を開き、着ていたベストを脱いで扇のように上下して、雑に内側の埃を払った。
「けほっ、けほっ…な、何をするのですか？」
「ごめん。暫くの間、耳を塞いでこの中に隠れていてくれ」
「え…？」
今度こそ、Aは俺を不審に疑った。
あの優しい顔が、ついに強張ったのだ。
初対面で手を引かれて、走り回されて、挙句には埃臭い屋敷の汚いクローゼットの中に入れと言われているんだ。
彼女くらいの年の女の子なら誰だって不審に思い、助けを求めたり何ならするはずだ。
そのくらい世間知らずで、されるがままで、言われたことしかできない能天気な性格なのかもしれない。
正直、腹が立つくらいだった。
「…わかりました。でも、ちゃんと帰ってきてくださいね」
そっと俺の手に触れたAの手は少し震えていた。
「大丈夫、絶対帰ってくるから」
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作者名：ラザニア太郎 | 作成日時：2021年12月21日 23時
