23話 ページ25
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「そんな柔な夢だから他人も自分も傷つけるんですよ。
いや、夢というよりも貴女の虚しくて幼稚な心構えが先ず柔と言った方が正確でしょうか」
「っ…!」
詰める度に彼女の心の亀裂が広がる音がした。
恐怖で体は震え、目には涙を浮かべる。抵抗も反論もする様子もない。ただ罵声を浴びせられて戦慄いているだけである。
ほんの少し煽りを入れた程度でこの様。彼女は志が高く、反して精神面は傷つき易く脆いのだろう。
彼女は“堕ちる”寸前だった。それが堪らなく愉快に思えてきたのだ。思わず口角が上がって、苛立ちはおろか、この状況を愉しんでいた。
それなのに_______。
「滑稽で何が悪いんですか?!」
驚いた。今の彼女にこのような大きな声が出せるとは。
私の手を振り解き、震える唇で必死に声を振り絞った。僅かな勇気か、煽られた苛立ちか。その両者が複雑に入り混じって、なんとか持ち堪えた様子だった。
今の彼女に、そこまでの元気があるとは思わなかった。
__________残念だ。もうすぐだったというのに。
だが惜しむ気持ちもありながら、心の底から徐々に沸騰するような昂揚感が生まれてきていた。
簡単には堕ちてくれない。だが、堕ちる手前までには簡単に到達してしまうのだ。
些細な出来事や他者の言葉から自身で大きな傷をつくる。良い意味でも悪い意味でも、彼女は純粋なのだろう。なんて愉快で、面白い人だ。堕とし甲斐がある。
自分の鼓動が高鳴るのがわかる。
次にどんな言葉をかけてやろう。再び力を失って涙を流し始める彼女が、更なる絶望の境地に立たされるのは私次第だ。
眼前の愉悦に薄ら笑いを浮かべる。
思わず彼女に触れてみたくなって手を伸ばした。
だが、触れる寸前でかの人の存在に気づき、一気に気分が萎える。
「やめろ、これ以上は許さぬ」
鐵腸さんはいつもよりも声音が低く、如何にも憤怒と焦燥が見えた様子だった。
なんとなく予想はついていたが、いざこう邪魔をされると腹が立つ。
それからは二人の生ぬるい弁論会だ。側から聞いていて胸焼けがして仕方がなかった。
挙句に副長に追われる始末。
副長の存在に気づいて早々と逃げたつもりだったが、運悪く見つかってしまった。それからは言うまでもない。
全く…、この部隊。いい加減に嫌になる…。
だが、悪いことばかりではない。そう思える物が一つ増えた。
さて、これからどうしてやろうか_______。
人知れず、そう微笑んでしまうのだった。
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とっふ - わぁ……夢主ちゃん可愛い…最高ですね! (1月3日 17時) (レス) @page2 id: 521a35a539 (このIDを非表示/違反報告)
るぅ - 最高です!続き楽しみにしてます!! (9月21日 20時) (レス) id: 2822ecfe2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラザニア太郎 | 作成日時:2023年3月27日 22時