12話 ページ14
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迎えの車に戻った時には手を離していた。
その瞬間、彼女は静かにふぅっと、安堵したような熱い溜息を吐いた。
まだ顔がほのかに赤い。それに発汗も心拍数も著しく増加している。
初めて手を繋いだ時からずっとそうだった。
「男性経験、無いんですね」
「んなっ?!急になんの話ですか…?!」
「手を繋いだ時、明らかに動揺していましたよね。
ちゃんと言っていませんでしたが、私は目が見えない代わりに他の五感が長けているんです。
あらゆる物、人を把握する以外に、その人物の心音から感情を読み取ることができます。
なので貴女が思っていたこと、感じたことは手に取るようにわかりましたよ。“あぁ、男の人の手ってこんなに大きいんだ”…なんて」
「な、なんでわかるの…?!」
ほのかに赤くなっていた彼女の顔が、更に赤くなっていく。
さっきまでの安堵していた表情が段々と崩れ落ちて、逃げ場のない子猫のような震え上がりを見せてくれた。
なんだか少しだけそそられてしまう。そう思った時には彼女の方へ詰め寄っていた。
「誰かを助けるのに、逐一恥ずかしがっていては世話ないですね。まぁこれからも精々頑張ってみてください。
あと何度も言いますが、今日のような手助けは不要です。というか貴女の方が手助けが必要な気がしますけれど。簡単に迷子になってしまうような、方向音痴で不器用な方ですからね」
「あ、あわわわ…!!」
とうとう彼女は声にならない小さな悲鳴をあげるだけになってしまった。
そういえば彼女は母子家庭だと聞いた。男性経験がないのにもまぁまぁ頷ける。とは言っても、学校生活を経ていながら流石に無さすぎるとは思うが。
それでも一生懸命に親切をしようとする。だがそれが仇となって彼女は恥ずかしい思いをしてしまったのだ。
この人はなんて愚かで、優しくて、甘い人間なんだろう。
「…ふふ、可笑しい人」
思わず堪えていた笑みがこぼれてしまった。
自分が怒っていたことさえも、可笑しいことのように思ってしまう。
そして、あの温かい手が妙に忘れられないのだった。
△▼△
Aside
私は条野さんに怒られた。そして手を引かれて、最後には笑われた。
事の発端は私の配慮の無さだったが、条野さんも条野さんだ。
私のことを意地悪に揶揄って、相当恥ずかしい思いをさせられたのだ。しかも物凄く愉しそうに。
「はぁ…」
戻った本部で一人、溜息を吐くのだった。
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とっふ - わぁ……夢主ちゃん可愛い…最高ですね! (1月3日 17時) (レス) @page2 id: 521a35a539 (このIDを非表示/違反報告)
るぅ - 最高です!続き楽しみにしてます!! (9月21日 20時) (レス) id: 2822ecfe2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラザニア太郎 | 作成日時:2023年3月27日 22時