新人猟犬、修行中！-再編版-【条野採菊】【末広鐵腸】 (ページ19)

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17話ページ19

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「ひゃいっ？！」

「？」

俺が鏑木の頬に指先を触れさせた瞬間、彼女は甲高い声を上げながら転がるように俺から退いた。

顔を真っ赤にしつつ、眼を見開いて俺を見ている。如何にも只ならない様子だ。
俺はただ、泣いた跡があることに言及したかっただけなのだが。

「…！
鏑木、すまない。血が付いてしまった」

「え？血……？」

彼女の可笑しな様子を凝視していると、彼女の頬に小さくも鮮血な紅が付いていることがわかった。

先程犯罪者の繰り出したナイフを素手で砕いたせいだろう。今になって気づいたが、彼女に触れた方の手が血だらけだった。

彼女の頬を拭こうともう一度近づく。

「っ？！鐵腸さん、その手…！！」

「平気だ。これしきの怪我、皆無に等しい」

「駄目ですよ！こんなに血だらけじゃないですか…！
そっちの手袋貸してください！」

彼女の勢いに思わず眼を丸くした。

言われるがままに左の長手袋外して渡すと、彼女はそれを裏返して傷口に当てた。

ふと彼女の方と見ると、顔が真っ青になって再び泣きそうな表情になっている。
手袋に血が滲む度、止血の処置を施す華奢なその手が震えていた。

「ごめんなさい…。私、何もできなくて、助けられてばかり…。挙句にこんな怪我までさせて……」

「お前は俺の言う通り前だけ見て進んだ。お陰で彼奴を見つけることができた」

「でも…_____」

ｻﾞｻﾞ_____
『一部標的の連行を完了。《猟犬》部隊、応答願います』

「…此方《猟犬》。残りの標的の戦闘不能を確認。直ちに連行します」

先程呼んだ応援からの無線が俺達の会話を遮った。
何かを言いかけていた鏑木だったが、話す気力も無くしてしまったのか。憔悴して俯いてしまっている。

「…行こう」

彼女の頬についた血を軽く拭き取って帰路に向く。
その一瞬で見えた彼女の表情は、まるで夜の森に暗く沈んで消えてしまいそうなほど青褪めていた。

こういう時、何と声を掛ければ彼女は前を向いてくれるのだろうか。
責を問う必要はないと何度説得しても、あの様子では鵜呑みにすることはないのだろう。

鏑木はとても純粋で優しい。だからこそ、時には自分で自分を傷つけてしまいそうだ。
俺はそのきっかけを作ってしまったのではないのだろうか。

あんなに気づかなかった手の傷が、今更じわじわと痛みを感じる。
その痛みと共に任務は終了するのだった。