・ ページ32
「そういえば先生は、古文ならどんな作品が好きですか」
「私は…竹取物語ですね。随筆などよりは物語の方が読み解いていて面白いですし」
彼の動きはなんとなく緩慢な、余裕のある動きに見えた。
座る動作、歩く動作、身振り手振り。
高校生とは思えない大人びた空気がある。
「伊沢くんは何が好きですか？」
「徒然草、ですかね。僕はその人の心をそのまま映した随筆は学ぶべきことや時代の流れを感じられると思います」
「なるほど。今授業をやっているところですね」
「はい。しかも僕が一番好きなのは「花は盛りに」なんですよ」
理由を教えてほしい、と顔で伝えてみれば、彼はそれを当然のように受け取り頷いた。
「今でも同意できることが、あの文章の中にあると僕は思います」
「それは何か聞いても？」
「もちろん」
彼は私の机に手を触れた。
ただ体を支えるものが欲しかっただけなのかもしれないが、そのゆっくりとした動きに何故か目が離せなかった。
「恋愛においては、最近では片想いが一番楽しいと言われがちでしょう。実る前の恋が、1番面白い」
「なるほど」
「後は、本文には書いてはありませんでしたが、僕は人の容姿についてもそうだと感じます」
容姿、と私はその言葉を繰り返す。
「はい。女性はよく着飾るでしょう」
「そうですね」
「僕は女性が着飾っている途中の姿が好きです。美しく見せようとする努力の形が」
「確かに」
「…あと、」
彼は高校生に似つかわしくないと思う。
ずっと、ずっとゆるりとした動きが、大人の香りを導き出している。
言葉を切って勿体ぶる間の呼吸さえも。
「それを全て、他人の手によってほどかれる姿も」
「…気持ちは理解できます」
否定はしないし、確かに同意できる。
でも、こういう話は、生徒とすべきではない。
けれど彼は、彼が高校生ではないと錯覚させてくる。
「先生の姿も、美しいですし可愛らしいです。でも僕は、その前後の姿こそ1番美しいと感じます」
彼の手が、わたしの手に近づいた。
しかしそれは簡単に離れていく。
「後少し、ですね。実習期間」
彼から目が離せないのは、美しいと感じてしまうのは、それが咲く直前だからだろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1067人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「短編集」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やまうみ。(プロフ) - せなさん» コメント気づかなくてすみません！！！本当にすみません、コメント、リクエストありがとうございます！実生活が忙しくここまで返信もが遅れているのにも関わらず実現も遅くなるかと思いますが、やらせていただきたいと思います！ (2022年11月3日 23時) (
レス) id: df4c29ea6c (このIDを非表示/違反報告)
せな - リクエストって大丈夫でしょうか…？fkrさんで初キスっていうシチュエーションお願いします。できたらで大丈夫です (2022年10月8日 0時) (レス) id: d640880a42 (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。(プロフ) - やまねこさん» わかりました！！ありがとうございます！ (2022年6月14日 18時) (レス) id: df4c29ea6c (このIDを非表示/違反報告)
やまねこ(プロフ) - 内容の指定はありません。 (2022年6月8日 19時) (レス) id: 95202aa62a (このIDを非表示/違反報告)
やまうみ。(プロフ) - やまねこさん» こんにちは！返信遅れてすみません。コメントありがとうございます！書けますが内容の指定はございますか？内容指定の有無のコメントがあると嬉しいです、よろしくお願いします！！ (2022年6月8日 17時) (レス) id: df4c29ea6c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
