【文豪ストレイドッグス】玉響

七話 ページ9

「ありがとう。わざわざ送ってもらってすまないな。」

「いや、どうせ僕達は暇だったし…… 。」

「何を言う敦君、私は暇ではないのだぞ。」

「自 殺の仕方について考えているのは暇の内に入りますから。」



公園の時計の針は午後の三時半を指していた。
冬に比べればまだ明るい春の夕方前。
それでも敦達以外誰一人としていない園内は、桜をより美しく魅せている。

ふいに、一枚の桜の花弁が敦の頬に張り付いた。



「おっと… 。」



そう呟いて花弁を取ろうとする。
しかし敦自身の指が花弁に触れる前に他の指がそれを摘んでいた。



「いいねぇ、桜の似合う男。嫌いじゃないぜ、私は。」



そう言って少女は摘んでいた花弁を掌(てのひら)で握り、「さんにいはい」と言って手を開いた。


「わぁ…… 。」

「おぉ、これが魔法(マジック)というものかい。すごいねぇ。」


少女の手の内には花弁ではなく満開の桜の花が沢山乗っていた。

そしてその中から一つ、特に綺麗なものをもう片方の手にとると



「喜びな、桜(これ)に愛されていることを。」



そう言って桜を敦の髪に飾ってあげた。



「ありがとう。何か照れるなぁ。」


少し頬を赤らめながら頭を掻く敦。
そんな様子に太宰はニッコリ笑いながら言う。


「あれ？私にはないのかい？」

「貴方さんは愛されてないからねぇ。はっはっはっ！」

「そんなぁ… 。」



なんだかんだで時計の長針は九を指していた。
ときたまに吹く風も先程より寒くなっている。



「おっと、それじゃあここらへんで。今日は本当にありがとう。何かあったらお宅らの所に行くよ。それじゃあ。」



手をヒラヒラさせて背を敦達に向ける少女。
二人もそれにつられて手をヒラヒラさせる。


そして少女が三歩目を踏み出そうとした。



その時______









「ｷﾞｬｧｧｧｧｧｧｧｱｧｧｧｱｧｧｧｧｧｧ______!!!!!!!!!!!!!」







静かになり始めていた街に一つの悲鳴が響き渡る。


「太宰さんっ！今のは！？」

「西の方からだね。」

「おいおい私の帰宅を遅くさせようってか？酷え奴だな。」


別れる気でいた三人は再び集まった。


「危ないかもしれないから来ない方が… 。」

「何を言う、乗りかかった船だ。最後まで付き合うぜ。ははっ。」

「そういうのとても良いと思うよ。」


三人で互いに目を合わせ、頷き合う。
そして走った。




悲鳴の方向へと。

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