三十三話 ページ35
「待ってください。成果がない?でも現に彼女は……。」
「……だぁから言ったろう、失敗作『ばかり』だって。」
そう、それはこういうことを意味するのだ。
「…………彼女は、樫原Aは唯一の『成功作』だったってことですか?」
「そうだよ、本当に唯一の『成功作』。他の実験体は悲惨な死に方をしていたようだけど、彼女だけが唯一生き残ったンだ。」
与謝野ははぁ、と大きなため息を一つついてからまた椅子から立ち上がる。そして敦の傍を離れて、また戻ってきた。彼女の手には柔らかい湯気が立ち昇る、ティーカップが二つ握られていた。
「ほら、飲みな。少し頭を整理した方が善いよ。」
「ありがとう……ございます。」
ほのかな酸味が心地よいレモンティーは、緊張しきった敦の身体にじっくりと染みていくのであった。
「それにしてもマフィアも驚くだろうね、まさか『成功作』がいたなんて。」
「奴らは……気づいていなかったんですか?」
「あぁ、そうらしいね。何にしろ、樫原Aは研究所の所長自らが誰にも言わずに大事に育ててきたらしい。もちろん、マフィアにも。」
誰にも知られることなく、着々と『人工異能力者』としての道を歩まされた樫原A。
そんな彼女と刃を交えた敦はただただその真相に呆気にとられていくだけだった。
「でも」
与謝野の一段と大きい声で敦の意識が此方へと戻ってきた。
「奴らは……ポートマフィアは最近になって樫原Aのその存在に気づいたらしいね。今、血眼になって探しているらしい。」
「え……!」
口に入っていたレモンティーが驚きのあまり、気道に入ってしまい敦はその場で咳き込んでしまった。
「ちょっと大丈夫かい?……まあそのおかげでウチの太宰はアンタが寝ている間ずっと動き回っていたよ。」
「太宰さんが……!?」
「そうさ。アンタたちのこと谷崎と連れて帰ってきた途端、人が変わったように真面目な顔して調べものばっかりさ。」
既に空となった敦のティーカップを手に取り、与謝野は自分のティーカップの上に重ねた。
「そ、そうだ!その……太宰さんは今、何処に……。」
椅子から立ち上がりティーカップを戻しに行こうとした与謝野の背中に敦は問いかけた。
すると与謝野は首を傾げてこう言った。
「太宰なら出掛けたよ。確か……元『相棒』と杯をかわしにいくとか言って。」
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夏蜜柑(プロフ) - さけられるチーズさん» コメントの返信が遅くなってしまいすみません。応援ありがとうございます。これからも頑張って書き続けますのでよろしくお願いします(^^) (2016年5月2日 17時) (レス) id: 4b1740a2d9 (このIDを非表示/違反報告)
さけられるチーズ(プロフ) - これからどう芥川さんにいくか気になります!♪( ´▽`) 更新頑張ってください! (2015年7月3日 19時) (レス) id: 26b822a438 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 中矢さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。期待に答えられるよに書いていきますのでこれからも是非よろしくお願いします。 (2015年5月5日 22時) (レス) id: 61e9595a71 (このIDを非表示/違反報告)
中矢(プロフ) - 楽しく読ませていただきました。私も原作読んでます。いいですよね!続き頑張ってくださいね! (2015年5月3日 19時) (レス) id: 7f7dd8e1cd (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 禁煙Dutchさん» ありがとうございます。更新を頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。 (2015年3月29日 21時) (レス) id: 9f8193b493 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏蜜柑 | 作成日時:2015年3月20日 20時