十一話 ページ13
「待って。」
去ろうとした少女に太宰は呼び止めた。
四歩目の脚が出かかっていた少女。
だが太宰に呼び止められてその脚は元いた場所に戻った。
「はい?何でしょうか?」
少女は振り返る。
先程までとは違う丁寧な口調で笑顔を浮かべながら彼女は返答する。だがその笑顔は作り物だということを敦は感じ取っていた。
そして太宰は少し遠ざかった彼女のもとに歩み寄って笑顔で聞いた。
「『それ』、どうするの?」
太宰が指差した先には血まみれの男。
もう、死後硬直が始まっている頃だろう。
太宰の問いかけに笑顔を崩さず少女は言う。
「どうするって……厭だなぁ、太宰さん。何が言いたいんですか?」
笑顔から翡翠の目を見せる少女。
その言葉には少し、苛立ちのようなものも感じ取れる。
「なに、特別何かを聞きたいわけじゃないよ。只、気になるだろう?『一般人』としてね?」
笑顔は崩さず、顔を少し傾ける太宰。
そんな太宰に少女は失笑した。
「はっはっはっ!面白いことを言う人だな、貴方は。『一般人』か……、なら『一般人』用の答案を差し上げましょう。」
そして少女がその『一般人用の答案』を口にしようとした時、太宰の人差し指が彼女の唇に触れる。
「待ち給え。前言撤回だ。やはり気になる、『武装探偵社』として。」
もう、太宰に笑顔はなかった。
ただそこにあるのは『欲』。
「………。 」
二人のやり取りに敦は冷や汗をかきながら、その様子をただ黙って見ているしかなかった。
気不味い沈黙が流れる。
少女は相変わらずニコニコと笑っており。
口を開く様子はなかった。
だが
「………?あ、雨?」
敦は自分の顔に冷たいものが降ってきたのを感じた。
そしてそれは次第に薄暗い空を黒く染めて勢いを増した。
雨が嫌いなのかは分からない。だが少女は保っていた笑顔を崩し、小さい舌打ちをすると
「………去年の7月22日。」
そう呟いた。
「7月22日?」
太宰が聞き返す。
「そうだ。『武装探偵社』として差し上げられる答案はそれだけだ。」
翡翠の目を雨で潤ませながら言う。
そして一度大きな深呼吸をすると今度こそ背を向け去ろうとした。
「待ち給え。」
またもや太宰が呼び止める。
だが少女は今度は止まらない。
歩き続ける彼女に太宰は言った。
「私は君に惚れることにするよ。」
雨の勢いは増すばかりであった。
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夏蜜柑(プロフ) - さけられるチーズさん» コメントの返信が遅くなってしまいすみません。応援ありがとうございます。これからも頑張って書き続けますのでよろしくお願いします(^^) (2016年5月2日 17時) (レス) id: 4b1740a2d9 (このIDを非表示/違反報告)
さけられるチーズ(プロフ) - これからどう芥川さんにいくか気になります!♪( ´▽`) 更新頑張ってください! (2015年7月3日 19時) (レス) id: 26b822a438 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 中矢さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです。期待に答えられるよに書いていきますのでこれからも是非よろしくお願いします。 (2015年5月5日 22時) (レス) id: 61e9595a71 (このIDを非表示/違反報告)
中矢(プロフ) - 楽しく読ませていただきました。私も原作読んでます。いいですよね!続き頑張ってくださいね! (2015年5月3日 19時) (レス) id: 7f7dd8e1cd (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 禁煙Dutchさん» ありがとうございます。更新を頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。 (2015年3月29日 21時) (レス) id: 9f8193b493 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏蜜柑 | 作成日時:2015年3月20日 20時