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伍拾陸 ページ10

「ねえA…どうしたの、その姿。見慣れない服なんか着て、髪も短くなって…僕の羽織なんか羽織ってて」


悲しい声音の兄さんが、私の頬に手を添えた。


ごめん、兄さん。


髪は戦闘の邪魔になるから切ったんだ。


羽織は、せめてもの形見だと思って羽織ってる。


「A、どうして目を伏せてるの?目が痛んだのかい?」


…ああ、それこそ謝らなければならない。


この目はもう見えなくなってしまったから。


『__ごめん、兄さん。実はもう、この目はあの時失明してる』


きっと兄は絶望しているだろう。


あれ程褒めてくれていた目が失明したのだから。


「…そっか、目見えなくなっちゃったんだ」


『…え?』


何とも呆気なかった。


まるで把握していたという様に。


『ど、どうして…失望しないんで?』


「しないよ、僕はしない。…だって大好きな妹に失望するなんて、兄として失格だろ?」


いつもの変わらない、優しい声音だった。


今その顔は柔らかな笑みを浮かべているのだろうか。


ああ、顔が見たい。


ここに、残ってしまいたい。


でもそれは叶わない。


「ただね、御先祖様みたいだなって思ったんだよ」


兄さんがそう口を開いた。


御先祖様?それは、どういう事だろう。


「A、いいかい。僕らの御先祖様もね、目の見えない人が一人居たんだ」


「…で、その格好からして、Aは鬼殺隊の剣士になったんだね」


『ど、どうしてそれを…?こりゃあ、夢なんじゃ…』


「ふふん」


な、何で得意気に鼻を鳴らしているんだろう。


困惑していると、兄さんからぎゅっと抱き締められた。


「A、僕は君の為に生きて、君の為に死んだんだ(・・・・・)。だから今この時は、あの頃伝えられなかった僕の後悔…そしてやるべきはずだった事」


「僕は君の夢に入り込んで来た、青天目和住の地縛霊だよ」


…満面の笑みを浮かべている気がする。


どうして地縛霊なんて堂々と、はっきり言えるのだろう。


「あれ、A顔が引き攣ってる。あ、まさか僕の言ってる事信じてないね!?」


『…普通なら有り得ねェと思うんで』


「酷い!」


地縛霊なんて普通信じられない。


兄さんの霊が私の夢に入り込んで来た?


そんな都合のいい事があっていいのか、ただでさえ敵の血鬼術にかかっているというのに。

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作者名:ゆず招き猫 | 作成日時:2019年11月30日 16時

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