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伍拾参 ページ7

No side.


「縄で繋ぐのは腕ですか?」


「ええ、注意されたことを忘れないで」


手に縄を持つ少女達の言葉を聞きながら、一人の青年がAの腕に縄を繋げる。


(…綺麗な顔だ)


不意にもそう思った頭をぶんぶんと振る。


呼吸を整えて、青年は夢の中へと入り込んだ。





A side.


___チャッ、チャッ


___チチッ、チッ


鶯の声が耳に届く。


広がる景色は冬模様。


『…あ』


この景色を、知っている。


いやここは、妙に懐かしい。


「A?」


不意に隣から声がした。


そちらの方を向くと、何故か自然と涙が溢れてくる。


『あ、あ…』


「ど、どうしたんだい?もしかして花粉症?可笑しいな、もうその時期はとっくに終わってるはずなんだけど…」


違う、違う違う。


そうじゃない。


だけど、わからない。


どうしてこんなに涙が溢れてくるのか。


思わず抱き着いた。


声を出して泣いた、訳もわからず。


『兄、さんっ…!和住(わずみ)兄さん!ごめんなさい、ごめんなさい!!』


兄は、和住兄さんは、そんな泣きじゃくる私の頭を泣き止むまでずっと撫で続けていた。






「驚いたよ、Aったら急に泣き叫ぶんだもの」


平屋に上がり込んで、私の手を引いていた兄さんの手は今は優しく私の目元を拭っている。


「でもほんとにどうしたのかな?何か嫌な事でも思い出した?小さい頃、親戚の爺さんに怒られた事とか」


『そ、そんな昔の事で今更泣く私じゃないよ…』


「あはは、それもそっか。Aはもう十六になるもんね。えらいえらい」


『こ、子供扱いしないで!さっきのはほんとにわからなかったんだから!』


「はいはい。分かったから今は目元温めようね〜」


兄さんはそう言って私の目元に温めた手拭いを乗せる。


じんわりと温もりが伝わってきた。


むすっとしていた私だったが、不意に手元の違和感を覚える。


『あ、ねえ兄さん。私の杖知らない?手に持ってたはずなんだけど…』


乗せられた手拭いをずらして兄さんを見る。


しかし兄さんは小首を傾げた。


「杖…?どうして杖が要るんだい、Aは脚なんて悪くないだろう?」


『ええ?…あ、そっか。何でこんな事聞いたんだろ…』


「もしかして、お婆さんになった時の練習でもしようと思ってた?」


『違う!』


からかい半分で聞いてきた兄さんに喝を入れる。


からからと心地いい声で兄さんは笑った。


ああ、幸せだなあ。

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作者名:ゆず招き猫 | 作成日時:2019年11月30日 16時

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