陸拾参 ページ17
『…これはどうも御丁寧に、ありがとうございます』
「礼はいいから、早く起こしてやったらどうだ」
『せっかちだなァ、お礼くらい良いじゃねェですか』
私がそう押し切ると、男の気配が少し弱まる。
お礼、言われ慣れていないのか。
『…んじゃ、禰豆子。早速ですが』
「厶!」
それぞれの切符を取り出し、集めたものを禰豆子方へ。
返事と共に私の手も巻き添えを喰らうかの様にボッと燃える音がする。
『あ』
「ムー!」
…手が、燃えた。
でも何故だろう、あまり熱くもないし、掌の切符だけが燃えていった。
『…焦げてない』
一応、燃えきった事を確認した後、自分の手も確認する。
火傷などはしていない様だ。
もしかして禰豆子の炎は、鬼だけに効く特有のものなのだろうか。
「…フゴッ」
ふと誰かの寝息が聞こえた。
顔をそちらの方に振ると、むくりと起き上がる気配。
『起きましたかい?』
「あ〜…?何だァ?」
『その声…伊之助君ですね、おはようございます。鬼が出ましたよ』
「……何だと子分糸目!何でそんな事早く言わねぇんだ!!」
私、何時から君の子分に。
その言葉は今は呑み込んでおこう。
『今、炭治郎君が鬼の元に行ってます。…ただ、恐らく』
「オオオオウォオオオ!!!」
バッキャー!!
何か砕けた様な。
気が付くと伊之助君の気配が上に。
まさか列車の屋根を突き破ったのだろうか。
『…説明の途中だったんですがねェ』
「Aさん」
『おや、善逸君。君も起きましたかい?』
「鬼の気配がこの列車全体から感じるんだ、乗客が危ないかもしれない」
…何だろう、何時もの善逸君より随分冷静だ。
確かにそんな気はしていた。
周りの気配が、赤黒い。
人の気配と混じって薄くは見えていたのだが、ずっと気の所為と誤魔化していた。
だが今は、とてもはっきり見える。
鬼特有の赤黒い気配が。
『…そうですかい。じゃあこの汽車自体が危うくなった訳だ。善逸君、鬼の気配が濃くなりました。ここからが本領発揮、ですぜ』
コン、と床を一突きする。
溢れる様に辺りに渦巻く鬼の気配。
これは大仕事になりそうだと、心の中で考えた。
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作者名:ゆず招き猫 | 作成日時:2019年11月30日 16時