伍拾捌 ページ12
意識がぼんやりとしている。
ガタンゴトンと、次第に遠かった音が鮮明になってくる。
『ん…』
「ムー…ムムー!」
何やら目の前から声がする。
声の高さからして、女の子だろうか。
『…何でェ、忙しい声にこの気配…ああ、まさか禰豆子かい?』
目元を抑えつつ声を出す。
目覚めはあまり宜しくない。
和住兄さん、幽霊だったとはいえ、起こし方はかなり優しかったはずなのだが…。
まあ、今はそんな事はいい。
目が覚める直前、また何かを言っていた気がするが今は思い出せそうにない。
幸い手には刀があった。
これを普通の杖だと思っていたのだろうか。
「ムー…」
『…会うのは初めまして、ですかね。以前君の兄とはお会いしてまして。鬼殺の剣士ではあるものの、君達の事は陰ながら応援してますんで…まあ、どうぞ良しなに』
「…ム!」
どうやら禰豆子には分かって貰えた様だ。
ひとまずほっとすると、なぜがぐりぐりと頭を押し付けられる。
『お?ん?どうかしましたんで?』
訳もわからず聞いてみるも、何やらすごく視線を感じる。
まさかこれは…。
『もしや、撫でろとでも…?』
私は予測でそう言ったが、言葉がわかるのか、禰豆子はぎゅう、と抱き着いてきた。
すりすりと、隊服に擦り寄ってくる。
どうやら正解だったらしい。
私は気配を頼りに手を当てる。
手は禰豆子の頬へ、そして頭へと。
髪は長い様だ、手入れがされているのかとてもさらさらとしている。
抱き着いたままの禰豆子を撫でていると、背後に気配を感じた。
素早く手に持った刀を回し背後の気配へ、首元へと
刀は抜けなかった。
その気配は人間だったから。
気配の人は驚かなかった、鐺を向けられても微動だにせずに。
『動きなさんな、斬られたくねェのなら』
「…動かないさ。俺には、君を殺す気はない」
声は男だ。
『…これまでやってきた過ちに、ようやく止めが効きましたかい?そいつは良かった。人じゃなけりゃァその頚、斬り落としてましたぜ』
刀を握った手には自然と力が籠っていた。
禰豆子は、恐らくきょとんとした顔で私を見上げているのではないだろうか。
『私は別に怒っちゃいねェんです。なぜ貴方方が人を喰うだけの存在でしかない鬼に、加担したかが不快に思うだけでしてね』
また刀を回してコン、と床を突く。
列車の走る音が忙しなく耳に届いていた。
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作者名:ゆず招き猫 | 作成日時:2019年11月30日 16時