130 大丈夫の崩壊。 ページ3
side.N
明らかに眠れていない翔ちゃんの為に薬を取りに行こうと立ち上がれば、腕を引っ張られ引き止められる。
「いや、ニノ…行かない、ここにいるって」
その震えた声に俺は慌てて首を振る。
「ごめん翔ちゃん。薬を取りに行こうと思って、でもここに居ますから。薬は潤くんに持って来て貰いましょ」
引き止められたその手を辿りギュッとその手を握る。そう、俺はここに居ると言ったのだから。
「あり、がと。ニノ」
縋るようなその瞳に俺は最悪の事態を回避した事を理解した。
携帯を取り出して潤くんに連絡を入れる。潤くんの事だから直ぐに気が付くだろう。
それまでの時間を利用して翔ちゃんのベッドにお邪魔して、横から翔ちゃんを抱き締める。それでも尚、落ち着かない様子の翔ちゃんは俺の腕の中でモゾモゾと動く。
手を握った時から分かっていた。明らかに冷たいその手は精神的な事が影響している。
「和、いい？」
潤くんの声が聞こえた事で翔ちゃんも安心したようでアイコンタクトを取ってベッドから出てそのまま部屋を出る。
「あぁ潤くん、ありがと」
薬と水の入ったグラスを持って来てくれた潤くんは俺が心配していたより落ち着いている。
「翔さん、どう？」
「最悪の事態は回避出来たって感じです。でも眠れてない所を見ると影響は出てます」
「そっか」
「で、そっちは？」
俺が思うに翔ちゃんも心配だけどおじさんの方が最悪の事態になっていそうで怖い。
「今、雅紀が話そうとしてる。部屋からは出てきたんだけど完全に無視っていうか、」
「ん？」
「多分、俺らの事も見えてねぇんじゃねえかって感じ」
潤くんの言葉に大野さんがまたあの時の様に壊れてしまったと思った。
「そう…俺も翔ちゃんが寝たら行くから。潤くんもあんまり無理しないでよ」
「あぁ、和は翔さんの傍にちゃんと居てやってよ」
あんまり長いと翔ちゃんが心配するからと部屋に戻れば、俺の姿を見て子供のようににこやかな笑顔を見せる。
「お待たせ、翔ちゃん。潤くんがお薬持って来てくれたから飲んで寝ようね」
「ん、ありがとう」
その屈託のない笑顔はまるでさっきまでの大野さんの姿を記憶の奥底に葬ったような気がして怖くなる。
でも、今は何も気にしないで眠って欲しいから。薬を飲ませて優しくその髪を撫でる。
大丈夫、何とかなる。
そんな根拠の無い自信が崩れていくのを穏やかな翔ちゃんの寝顔を見ながら悟った。
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作者名：未翔
| 作成日時：2020年3月8日 20時
