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side.O
「雅紀に悪いことしちゃったかな？」
「……それは、」
そんな事ない、と直ぐに答えられないのは肯定しているのと同じだ。
俺と翔くんが早退した理由。
別に翔くんの体調が悪くなった訳ではないし、もちろん俺でもない。
帰りたいと言ったのは翔くんだった。
いつもならそんな事は余程のことがあったとしても言わない彼自身がそう言った。
真面目で成績優秀者の翔くんでも、出席日数の影響は大きくて。
いつも欠席する事を悔やんでいた。
そんな翔くんが自ら帰りたいと言うのだから、俺も戸惑いを隠せなかった。
「体調、悪くなっちゃった？」
「ううん、そういう訳じゃないよ。でも今日は雅紀の優しさが疎ましく思えちゃってさ…」
最低だよね、と呟く彼を放っておくことも冷たく突き放すことも俺には出来ない。
ただ何も言わずに翔くんの手を握る。
俺は何があってもこの手を離さないと、翔くんから離れないと伝えるように。
それから岡田っちに頼み込んで雅紀に伝言を託してといったところ。
寄り道をすることもなく、2人並んで歩く。
「智くんはさ、俺なんかのどこが良かったの？」
「どうしたの？いきなり」
慌てる俺を笑うかのように翔くんは「いいじゃん、教えてよ」と言う。
子犬のように俺が話す言葉を待つ、その姿はいつもよりどこか幼く見える。
「空気だよ。翔くんの纏ってる空気は柔らかくて、あったけぇんだよ」
「何それ？」
「信じてないなぁ、ホントだかんな」
翔くんの頬をむにゅっと引っ張る。
「ちょっ、にゃにしゅんのしゃ」
「言えてないよぉーだ」
そう、この空気。
出会った時からこの空気に俺は恋に落ちたんだ。
いつか雅紀や風間くんにも俺と翔くんの出会いを教えてやろうと心の中で密かに決めた。
「雅紀は優しいからさ、ずっと俺の傍にいたら後悔する時が来ると思う。智くんはそれでも、俺の傍に居てくれる？」
いきなり何を言い出すんだと、さっきまでの会話がリフレインする。
「俺はずっと翔くんの傍にいる。ぜってぇ離れたりしねぇ。翔くんが離れろっても離れてやんねーから。鬱陶しいぐらい付きまとうから」
「それじゃ、ストーカーだよ」
俺は翔くんの柔らかくて温かい空気に恋に落ちた。
そして、もう一つ。
翔くんが纏うどこか儚い空気を知った。
“ねぇ、どうして貴方はそんな悲しそうな顔をするの？”
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
