97 帰っておいで。 ページ38
side.O
翔くん。
病室のベットに横たわる君は先程よりか幾分顔色もよく、規則的な呼吸をしている。
俺はそんな翔くんの手をぎゅっと握る。
きっと今の翔くんは頬を叩いても、握っているこの手をもっと力一杯握っても起きない。
「今回は先程も説明した通り症状が重症化したようだけど、今は落ち着いてるから安心して」
処置室から疲れ切った顔をして出てきた加藤先生は俺達を安心させるような柔らかな言葉で綴った。
先生の言葉に俺達は皆んな胸を撫で下ろして、その足で翔くんが運ばれた病室に向かった。
翔くんの姿を見た途端、その存在が嬉しくて無事に生きていることが嬉しくて。
俺と相葉ちゃんは堪えていた涙を解放した。
そんな俺と相葉ちゃんにニノは「なに泣いてんだ」って笑って、そんな俺達を松潤が優しい目で見ていた。
「風間ぽん、時間大丈夫？」
丸椅子に座り翔くんの様子をじっと見ている風間くんに声をかける相葉ちゃん。
その声に弾かれたように風間くんは申し訳なさそうな顔をする。
「すいません、今日、俺テストで…」
「翔ちゃんなら大丈夫だから、行ってきな。風間ぽん」
それでも申し訳なさそうにするからニノが「翔ちゃんのことなら任せて下さい。でないとテストサボってたって報告しますからね？」と冗談混じりに諭せばようやく動き出した。
「風間くんって本当に翔くんとそっくりだよな」
「特にこういう所ね」
礼儀正しく、真面目で、変なこだわりがあって、そして誰よりも人を思うところ。
「翔くん、早く起きねぇかな」
「しばらく寝かしてやろ。ちょっと疲れが溜まったんだろ」
忙しなく動き回り翔くんの横に張り付いてる松潤はやはり少し寂しそうな顔をしていて、それは出会った当初のまだ子供らしさの残るものだった。
「しょーくん、もう俺しか居ないよ？」
朝方に運ばれてから随分と時間が経った。
雅紀が気を遣ってか一度家に帰ろうと松潤とニノを連れて帰った。
「ほーら、お寝坊さん」
「寝坊じゃないけど…」
ゆっくりと目を開けて、揺れていた瞳は直ぐにガッチリと俺を捉える。
「おはよう、翔くん。今は何ともない？」
「うん、なんともないよ、大丈夫。また心配掛けちゃって…ごめ、んっ」
謝ろうとする翔くんの口元にそっと手をやると、はっとして頷く。
「助けてくれて、ありがと」
そう、その言葉が聞きたかったんだ。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
