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side.O
春休み、俺も翔くんも一日の殆どを家の中で過ごしている。
それでも翔くんは週に一度ほど気が向いた時には近くの喫茶店に出掛けて、本を読んだりしている。
俺もその喫茶店に一緒に行って絵を描いたりと、ゆったりしている。
「この時期は風が気持ちいいね」
「そうだね、桜も綺麗に咲いてる」
ベランダから見える桜はまだまだ満開とは言えず、幾つかチラホラと蕾がなっている。
ベランダに置いている椅子に翔くんと並んで腰掛ける。
ふと右肩に少し重みを感じる。
「智くん。この桜 描いてよ」
至近距離なうえに上目遣いでそんなお願いされたら断れる筈もなく、ってまぁ最初から断るつもりもないんだけど。
「いいよ。翔くんも一緒に描いてやる」
「ほんと？嬉しい！楽しみにしてるね」
目を細めて本当に嬉しそうに笑う。
出会った頃から翔くんは俺の絵を気に入ってくれていた。
初めは「俺 とんでもない絵を描いちゃったかな」って焦ってたんだけど。
実はそんな事はなくて、翔くんがじっと俺の描いた絵を見つめて中々顔を上げてくれなかった。
訳を聞いたら『こんな凄い絵を描いてるんですか？大野先輩は凄いです！才能の人ですね』なんて言うもんだからビックリしたな。
「智くんの絵は温かいんだ。人の温かさ、自然の温かさ、心の温かさ。全部が詰まってる」
「そんな事ないよ」
良いように言ってくれるな、なんて思っていたのは俺だけだった。
桜を見つめたまま、視線を外すことなく立ち上がる。
翔くんはそのまま桜に手を伸ばす。
「こうして一生懸命手を伸ばしても桜には絶対届かない。でも、智くんの絵には触れることが出来る。智くんの筆使いすらも絵の温かさなんだよ」
俺の絵をこれ程までに愛してくれる人はきっと、この人以外にはいない。
そして、俺自身をも包み込むような抱擁力を持った人を俺は翔くん以外には知らない。
「ありがとね、翔くん。俺は翔くんが居てくれるから描こうって思えるんだ。だから、これからもずっとおいらの傍に居てよ」
翔くんは優しく笑ってまた俺の肩に身体を預ける。
＿＿＿うん、当たり前だよ。智くんの傍を離れるなんてある訳ない。
そう言って欲しかった。
どうして何にも言ってくれないの。
貴方がどんな想いを抱えていたのか、知れそうで知れないもどかしさ。
それを押し殺すように、この肩の重みを離したくないと、その手を握った。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
