85 繋ぎ留める絆。 ページ18
side.S
久しぶりに見た、幼き頃を過ごした場所は変わり果てていた。
初めて足を踏み入れる土地のような気持ちだった。
つい先日まで、ひまわり園が取り壊しを迫られるほどの状態だった事も、真央先生が病に倒れた事も何一つ知らなかった。
智くんが教えてくれなければ、きっと俺はそのまま何も知らずに生きていたはずだ。
だから本当に智くんには感謝してる。
俺がどうなるか分からないのに、簡単に話そうとは思えないだろう。
きっと智くんなりに考えてのことだ。
今日、潤がこうして此処に連れて来てくれたのも俺を思ってのこと。
俺の周りにはこんなにも温かい人ばかりで。
ふと我に返るといつも傍には温もりを感じることが出来る。
｢翔さん？どうかした？｣
車に凭れて座り込んでいた俺を見て、潤が慌てた様子で駆け寄ってくる。
そんなに心配する事もないだろうにと立ち上がれば、軽い目眩が襲う。
ふらりと揺れた身体をがっしりと受け止められる。
｢ごめん…潤｣
｢気にしないで。それより、大丈夫？｣
コクリと頷けば、潤は俺を片手で支えたまま助手席の扉を開けて座席を少し倒す。
そのまま素早い動きで気づけば俺はそこに寝かされる。
｢ちょっと長居し過ぎたかな？そろそろ帰ろうか？｣
そう問いながらも既に俺の隣に乗り込み、車を出す気は満々だ。
｢そうだね、智くんもさすがに起きてるだろうし｣
｢なら早く帰って大野さんに癒して貰わないとね｣
軽く弄られているはずなのにニノや雅紀ほど大きく出れない潤が可愛く思える。
何言ってんだよ、なんて言えたもんじゃない。
｢多分すぐ着くけど、寝れそうなら寝ちゃっていいからね｣
暖房を付けて、優しくタオルケットをかけてくれる。
目を閉じながら潤の言葉を思い返す。
『俺さ、今働いてるファミレスで正社員として働くことにしたんだ。もちろん今は学生だから学業優先だからシフトも今と殆ど変わらない』
理由は直ぐに分かった。
でも俺が口を挟む前にそれは語られた。
『理由は翔さんも勘づいてるだろうけど金銭面。でも翔さんが気に病むことは何もない。これは俺がやりたくてやった事だから』
やりたくてやった事…
決断の理由から俺のフォローまで何もかも完璧だ。
『秘密にするつもりはないから。翔さんに全部話すから。だから翔さんも独りにならないで』
どこまでも潤らしくて。
智くんに、雅紀に、ニノに、潤に繋ぎ留められているような気がした。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年9月1日 14時
