48 出会った頃の。 ページ5
side.S
先生に話したい事がある、そう言っていたのは智くんでも、ニノでもなく潤だった。
潤は昔から俺なんかのことを慕ってくれていた数少ない内の一人だ。
俺のどこにそんな魅力があるのか、さっぱり分からないが、何だかんだ言いながら嬉しいもので、嫌な気は全くしなかった。
でも、潤はいつも一定の距離を保っている様に思える。
雅紀は出会った時から今と変わらない持ち前の明るさで。
ニノは俺の病気を知って一番、変わった。
智くんは、、俺を救ってくれた人。
潤は、きっと今の俺にどう接していいか分からないのだろう。
『櫻井先輩って、すっごくカッコイイですよね』
『なんか潤くんが言ったら変な感じ…』
出会った頃の俺は、今とは明らかに違うから。
誰一人として変わった、と言うことはないけど自分のことは自分が一番知っている。
もう、潤が慕ってくれていたあの頃の俺じゃないことぐらい。
月に一度の検診は余り気が進まないが、自分の事だから行かない訳にもいかない。
「今月はどう？気になるようなことはあった？」
智くんも潤も居ない、加藤先生と二人だけの診察室。
先生はパソコンから俺の顔へと視線を移し、じっと見つめた。
「何度か突然、蘇ることが……ありました。」
何年も俺を担当してくれている加藤先生は、俺のこの話も嫌という程聞かされてきている。
「それで、そのままいつもの症状が出て、」
パソコンに入力する事もメモを取る事もなく、真剣な表情で俺の話を聞いている。
「そっか…今日は大野さん以外に松本さんも来てるんだって？」
さっき看護師に聞いたよ、と話題を変えて話を続ける。
「珍しいね」
「いつもは智くんとニノだもんね」
そうそうと頷いて何かあった？と聞く。
「潤が先生と話したいんだって」
「ふーん、、そっか」
何か思うことがあるのか、先生はそれ以上は何も聞いては来なかった。
この後、俺はいつも通り検査を受けることになっている。
採血、血圧など諸々。
「あーあ」
時間も掛かるし、何より検査だけでも充分疲れる。
「毎度の事なんだから、相変わらずだな翔くんは」
先生は半ば呆れながら看護師さんを呼んで俺に検査を受けさせる為、一度廊下に連れ出した。
廊下に出ると椅子に一人、潤が座って待っていた。
智くんの場所は大体分かっているから、潤に診察が終わった事を伝え、迎えに行ってもらうよう頼んだ。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年7月10日 21時
