56 見れない素顔。 ページ17
side.N
自分自身で乱れた呼吸を整えようとする翔ちゃんを見れば、後悔するのは後だと感じ直ぐに動く。
隣に近付き、いつも通りに接する。
落ち着いて貰えるように、安心してもらえるように声を掛ける。
『落ち着かせることよりも大切なのは、傍にいるということを伝えることです。自分自身に置き換えてみるといいだろう。自分が不安で仕方ない時、君たちはどうしてほしい？』
今までの講義で教授が口酸っぱく言っていたことだった。
「翔ちゃん、俺らはずっと傍にいるから。大丈夫だからね」
優しく包み込んで何度も何度も伝えた。
腕の中の翔ちゃんが動くのが分かる。
慌てて手を離すと、翔ちゃんは俺を見て微笑んだ。
「……翔ちゃん？」
「ありがとう、ニノ。俺の…ために」
ありがとうと言った。
ごめん、ではなく、ありがとうと。
やっぱり少しずつ良くなっていると、回復の兆しが見えたように感じた。
「翔ちゃん！」
いきなり呼ばれた翔ちゃんは驚いていたけど、もうそんなのどうでも良かった。
きっと何度も逃げたいと思ったことだろう。
大野さんはまだしも俺みたいな頼りない奴と暮らしていて翔ちゃんに負担は掛かっていないかと、ずっとそう思っていた。
「ニノ？どうしたの？」
もう、翔ちゃんったら。
「どうもしてない。翔ちゃんが好きで好きで堪んないって話ですよ」
ツンデレにも程があったかもしれないな。
「ニノってば、、」
でも、翔ちゃんが照れているのを見るのは意外に悪くない。
「あっ、翔ちゃん。食べ終わったら薬は忘れずに飲んでくださいよ」
はーい、と返事はするものの気が抜けている。
まぁ普段は嫌という程ガッチリしてるからね、この人。
食事を終えて、薬を飲んだをことを確認して二人で暖かい昼間を寛ぐ。
ソファーで完全にリラックスしてる翔ちゃんは外では絶対に見れない姿だ。
「貴方はキャラがコロッと変わるんだから」
それだけ信頼して、自分をさらけ出してくれているのだと思っているけど。
「え？そう……かな？」
気付いてないっていうのも翔ちゃんらしい。
素直で誰よりも優しいんだから。
なのに……なんで翔ちゃんなのだろう。
こんなに一生懸命に生きている人を。
翔ちゃんと代わってあげたいと思うことが何度もあった。
神様という存在を信じるのなら、何度も恨んだ。
でも翔ちゃんは、そうはしなかったんだ。
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作者名：未翔
| 作成日時：2019年7月10日 21時
