大野クリニックで祝杯をー淡雪の記憶ー４ (ページ10)

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鴨志田は金庫に入ると、ゆっくりと奥へと進んでいく。

通路の左右に並べられた幾つもの木箱が、自分を歓迎ひているように感じた。

金庫の一番奥あたりまでやってきた時、ふと鴨志田は視線をあげる。

「どうかしましたか？」

すぐ後ろを歩く警備員が声をかけてくる。

鴨志田は「黙れ！」と鋭く言うと、耳を澄ます。

どこからか微かに電子音が聞こえてきた。

鴨志田はその音が聞こえる方向に近づいていく。

金庫の一番奥、木箱の陰から音は響いていた。

鴨志田はしゃがみ込んで、
木箱と木箱の間の隙間を覗き込む。

何かが置かれているのがうっすらと見えた。

「懐中電灯」

鴨志田ら隙間を覗き込んだまま、後ろに向かって手を差し出す。

警備員が懐中電灯を渡すと、鴨志田はそれで隙間を照らす。

心臓が氷の手で鷲掴みにされた気がした。
そこに置かれていたのは黒い箱だった。

蓋にデジタルタイマーが埋め込まれた黒い箱。
花本はぐみに作らせた時限装置。

何でここに爆弾が？
隣の警備室にあるはずでは？

しかも……。

鴨志田の視線はデジタル表示板に吸い寄せられる。

そこでは『8：12』『8：11』『8：10』と赤い数字がカウントダウンしていた。

しかも既に起動している。

一度起動したら、この時限装置は解除も移動も不可能だ。

8分後にはこの金庫内にあるものは粉々に吹き飛ぶ。

鴨志田が硬直していると、すぐ後ろに立っていた警備員が「あっ?!」と声をあげる。

反射的に振り向いた鴨志田は目を剥く。
扉がゆっくりと閉じはじめていた。

鴨志田たちは慌てて出口に向かって通路を走る。

しかし、金庫から出る前に、扉は重い音を立てて閉じた。

電灯が消え、あたりが闇に満たされる。

鴨志田は慌てて懐中電灯をつけ、正面を照らす。目の前に巨大な鋼鉄製の扉が立ち塞がっていた。

閉じ込められた。
いったい何で……？

パニックになり掛けながら、鴨志田は扉のわきを照らす。

そこに赤いボタンと格子状のインターホンが埋め込まれていた。

あやまって中に人が閉じ込められた場合、それで外と会話が出来る仕組みになっている。

鴨志田は懐中電灯。警備員の一人に渡すと、叩きつけるようにボタンを押した。

「どうなっているんだ！誰か答えろ！」

声を枯らしながら叫ぶと、インターホンから声が聞こえてきた。

『鴨志田、聞こえるか？』

「猿渡！早く出してくれ！中に爆弾があるんだ！」

鴨志田は安堵するが、
なぜか返事は聞こえてこなかった。