大野クリニックで祝杯を－淡雪の記憶－ (ページ2)

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プロローグページ2

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「おい、ふざけるな！なんの冗談なんだ！」

真鍋信二は狭い警備員室の壁が震えるほど、
声を張り上げる。

しかし、顔の横にある受話器からは、気の抜けた電子音が聞こえてくるだけだった。

叩きつけるように受話器を電話機に戻す。

すぐそばの鳥かごで飼われているインコのピー子が驚いたのか甲高い鳴き声を発した。

「おい、どうしたんだよ？でかい声だして」

背後から野太い声が飛んできた。

振り返ると、小太りの中年男が夜食のカップラーメンを手にソファーに腰掛けていた。

太鼓腹が紺色の警備員の制服を突き上げている。今夜、ともに夜勤にあたっている猪原史郎だった。

「何でもないです。
ただのいたずら電話ですよ」

「何でもないってことないだろ。あんなに怒鳴って。誰からの電話だったんだ？」

猪原はずずっと大きな音を立てて
麺をすすった。

「……男ですけど、
誰なのか名乗りませんでした」

二分ほど前、控室にかかってきた電話に信二は出た。

相手は「茅場町ビジネスパレスの警備員控室だな？」と確認した後、とんでもないことを言い出した。

「それで、そいつはなんだって？」

猪原は面を咀嚼しながら訊ねてくる。

「それがですね、このビルに爆弾を仕掛けたとかなんとか……」

信二が言うと、猪原は激しくむせ返った。

「大丈夫ですか？」
「大丈夫ですかじゃねえ！爆弾だと⁈」

咳込みながら、猪原がだみ声を上げる。

「はあ、そう言っていました。たちの悪いいたずらですよ」

「いたずらじゃなかったら、どうするつもりだ！建物内に危険物がある可能性があったらすぐに動かないといけないんだよ。マニュアル知らねえのか！」

「いえ、それは……」

信二は非常勤の警備員でしかない。

半年ほど前、このビルに配属されたときにマニュアルは受け取ってはいたが、細かいところまでは読み込んでいなかった。

「馬鹿野郎！まずは危険物の有無を確認してそれから建物内にいる奴らの避難、そして警察へ通報するんだ。電話してきた奴はなんて言っていた？」

ようやく事態の大きさに気づいた信二は、必死に記憶を探る。

「え、えっとですね。最上階に爆弾を仕掛けた。午前零時に爆発するんで、それまでに建物内にいる者を全員避難させろと。あと、絶対に爆弾に触れるな、少しでも動かしたりしたら爆発するとか……」

猪原が壁時計に視線を向ける。
時刻は午後11時43分を指していた。

午前零時までは20分を切っている。