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二宮が説明していると、
松本が「……静かに」と声を上げる。
見ると、女が小さくうめき声を上げながら、ゆっくりと瞼を上げていた。
「あっ！あああっ！」
目を開いた女は、突然叫び声を上げながら、四肢をばたつかせ始める。
パニックになっているようだ。
失神から意識が戻った際にはよくあることだった。
女が暴れる姿を見て、櫻井はかすかに安堵する。麻痺はなさそうだ。
脳内出血などの致命的な症状が起きている可能性は低いだろう。
「落ち着いて……落ち着い、いつっ！
……ニノ、頼む」
暴れる女を何とか落ち着かせようとした松本だが、長い前髪を掴まれ、眼鏡をはたき落とされたところで、二宮に助けを求めた。
「まったく、しかたがないなぁ」
大きく肩をすくめた二宮は、女に気付かれないようにそっとソファーに近づく。
上半身を起こした女の背後に近づいた二宮は、死角から肩を軽く叩いた。
女が振り返る。
その瞬間、二宮は彼女の顔の前で、
両手を打ち鳴らした。
パーンと言う音がリビングに響き、女の動きが停止する。
「意識の隙間を縫ってショックを与えるとね、どんな人間だって固まるもんなんですよ」
二宮が得意げに胸を張ると、「少しは落ち着いた？」と女の目を覗き込む。
「えっ、あの……」
女はまばたきを繰り返す。
「大丈夫、心配いらないよ。ここがどこだか分かる？」
二宮は柔らかい声で訊ねる。
「あ、あの……分かりません」
「まあ、意識を取り戻したばかりだから仕方がないよね。それじゃあ取り敢えず、お姉さんさ、名前を教えてもらえます？」
女は表情を強張らせると、助けを求めるかのように、忙しなく視線を彷徨わせる。
「どうしました、お姉さん？」
「……分かりません」
おずおずと言う女の前で、二宮は「へ？」と気の抜けた声を出す。
「何も思い出せないんです……自分の名前も」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
