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「けど、それなら、通報した後、救急隊とか警察が来る前に愛人を帰せばいいだけじゃないですか？」
疑問が櫻井の口をつく。
二宮は「それもそうだね……」とつぶやくと、もともと大きな目を見開いて、梅沢の顔を凝視する。
その視線の圧力に、梅沢は軽くのけぞった。
10数秒後、二宮は「なるほどね」と、胸の前で両手を合わせる。
「社長は、今夜ここにいること自体、知られるわけにはいかなかったんだよ。たぶん、出張にでも行っていることになっていたんじゃなかったかな。もし通報なんかしたら、自宅にいた事がバレて、芋づる式に不倫までバレるかもしれない。だから、クライアントの秘密は絶対に守る僕たちを呼んだんだ」
二宮のセリフを聞いた梅沢は、酸欠の金魚のように口をパクパクと動かした。
その様子を見ると、どうやら図星だったようだ。相変わらず、よくそこまで人の心を見通せるな。
櫻井は呆れと賞賛を同程度にブレンドした視線を二宮に向ける。
「いやぁ、いくら奥さんが旅行中だからって、自宅に不倫相手を呼んじゃダメでしょ。どこからバレるか分かったもんじゃないし。で、相手は誰？ホステス？CA？秘書？あっ、いま反応した、秘書だね？自分の秘書が愛人なんでしょ？」
「梅沢さん、いまの話は本当ですか？」
二宮のはしゃいでいるのを尻目に、大野が低い声で訊ねる。
その口調には明らかな怒気が含まれていた。
それはそうだよな。
櫻井は軽く首を振る。
二宮の言う通りなら、梅沢は自らの不倫を隠すために、倒れている女性の身を危険にさらしたという事になる。
救急治療は一分一秒を争う。
治療がほんの僅かに遅れるだけで、助かるはずの者が命を落としたり、重い障害を負うことがあるのだ。
「違う！……いや、違いはしないけれど、私はその女に頼まれたんだ」
大野は「どういうことですか？」と、声を裏返す梅沢を睨みつける。
「意識を失う直前、私が『警察を……』ってつぶやいたら、その女が自分で言ったんだ、『警察は嫌』って。そ、それに……救急車を呼んでも病院まで運んで治療が始まるまで、かなり時間がかかるだろ。それなら、君たちを呼んだ方が彼女のためにいいかと思って……」
梅沢は媚びるような表情を浮かべる。
大野は二宮に視線を移した。
「えーっとね、なんかその女の人が『警察は嫌』って言ったのは本当みたい。ただ、俺たちを呼んだ方が治療が早いうんぬんは、単なる言い訳ですね」
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年11月9日 16時
