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形式通りに一度頭を下げた大野は、
すぐに隣に立つ奈美に向かって手を
差し出すと、「メス」と呟いた。
奈美がその手にメスを渡す。
いよいよ手術が始まる。
櫻井はマスクの下で細く息を吐いて
加速する心臓の鼓動を抑えながら、
奈美から鑷子(セッシ)を受け取る。
手術室の空気が張り詰める。
次の瞬間、メスが術野の皮膚の上を
滑るように動いた。
メスが通過した部分に赤い線が走る。
わずかな無駄もないスムーズな皮膚切開。
櫻井は慌てて鑷子で皮膚を掴む。
メスを戻し、代わりに電気メスと鑷子を
手に取った大野は、黄色い脂肪層を
電気メスで切り開きながら、
細かい出血を焼き固めていく。
脂肪の下に腹膜が見えてきた。
「クーパー」
電気メスを脇に置いた大野は、
奈美から手術用のハサミである
クーパー剪刀を受け取ると、
一瞬の躊躇もなく腹膜を切り裂く。
その下に内包されていた内臓が、
無影灯のまばゆい光の下に露になった。
そのスピードに櫻井は目を見張る。
ここまで素早い開腹をこれまで
見たことがなかった。
大野と櫻井は開創器で術野の視界を
確保すると、腸ベラで肝臓と小腸を
脇に避け、ピンク色に光沢を放つ
胃の全体を露出していく。
「……行くぞ」
大野はつぶやくとクーパーを操り、
胃へと繋がる血管を次々と腹腔内の
結合組織の中から露出させ、
糸をかけていく。
その指先の動きは流麗で、
一流ピアニストの演奏を彷彿させた。
器械出しをしている奈美も、
まるで次に大野が何を必要としているかを
予想しているかのように、一瞬の滞りもなく
器械を渡していく。
これまで多くの有名外科医の手術に
助手として参加してきたが、
ここまで正確で、緻密で、スピーディな手術
を目の当たりにしたことはなかった。
ようやく、さっき奈美に言われた
「振り落とされないように」という
言葉の意味を理解する。
少しでも気を抜けば、
二人のスピードに置いていかれてしまう。
マスクの下で唇を噛みながら、
櫻井は必死に大野から次々と渡される糸を
外科結びで結紮していく。
血管の処理を終えると、
大野はまるでもともと取り外しが
出来るように設計されていたかのように
胃を腹腔内から取り出し、
切断した断端の縫合にかかる。
縫合針が踊りを舞うかのように
複雑に動き、食道と十二指腸の断端を
縫い合わせていくのを、櫻井は
息をすることも忘れながら見入っていた。
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未翔(プロフ) - あきさん» 読んで頂いてありがとうございます！ここから更に急展開ですのでお見逃し無く！！ (2021年5月25日 22時) (
レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
未翔(プロフ) - shioribaron0307さん» ありがとうございます！ (2021年5月25日 22時) (レス) id: b3cb87418b (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - うわぁ〜急展開！！ワクワクしますね。続きを楽しみにしてます。 (2021年5月25日 15時) (レス) id: de45e6159d (このIDを非表示/違反報告)
shioribaron0307(プロフ) - お話面白かったです。続き楽しみにしています！ (2021年5月22日 14時) (レス) id: 7628593eb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：未翔
| 作成日時：2021年5月15日 12時
