12.オンドサ ページ13
それからというもの、兵頭君はお芝居を、私は勉強を懸命に取り組んだ。兵頭君は元から熱心だったが、最近は気が立つほど台本と向き合っている。声をかけようにもかけられない、まぁかけるつもりはないけど何処と無く寂しいような虚しいような。
兵頭「………」
気づかれないよう兵頭君を見る。
口元を手で隠しているが、モゴモゴと動いているのできっと口パクしているのだろう。
台本を見る黄金色の目は細く、ただただ1点を見つめていた。そこにはらりと垂れ下がる紫色の前髪が、妙に色気を感じさせる。
相変わらず整った横顔。初めて見たときは心臓がどこかへ飛んでいくんじゃないかと疑うほど動悸が止まらなかったのを覚えている。と言ってもつい最近のことなのだが。
兵頭「…ルチアーノ」
ぽそっと聞こえたその言葉。自分でも聞き取れたのが不思議なくらい小さく呟かれた言葉。
一単語だが、どこか重みがある。
しかし一番に目に入ったのは兵頭君の表情だ。
こんな兵頭君は見たことがない、ましてや誰からも想像されないであろう兵頭君がそこにはいた。
誰だ、と一瞬固まったほどである。
恐らく、兵頭君の演じる役がそうなのであろう。
だがこんな、こんな顔を兵頭君がしていいものなのか。お芝居を見に来る客全員が、確実に兵頭君に魅せられることは容易に思い浮かべることができた。
『…ひょ……ど、く…ん』
兵頭「………」
彼は気づいていない。私の呼び掛けに。
いや、正確に言うと呼びかけではなく一人言だ。
なぜたろう、こんなに近いのに、隣にいるのに、私一人だけ疎外感というものを感じる。
また、壁を感じる。
今の時期、兵頭君にとってはとても大事な時期だ。
彼は今不器用なりに精いっぱいやっている最中だ。
しかし私はどうだ。
兵頭君のせいにするつもりはないが、兵頭君と隣になってずっと勉強が頭に入らない。完全に浮きっぱなしである。
悶々と考えたが、解は出ず、胸に残る不安をかき消すようにまたノートと向き合う。
この日はずっとペンを持っても、ペンが進むことは無かった。
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抹茶ぱふぇ(プロフ) - りんりんさん» 十座の横顔って絶対イケメンだと思うんですよ…。何度夢見たことか…!更新のペースは遅くなると思いますが、気長に待っていてください。 (2017年10月18日 23時) (レス) id: cd03e2e498 (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 真剣に台本を読む十座くんなんて、考えただけでかっこよ過ぎてしにそうです!絶対眺めちゃいますよね!更新頑張ってください、応援してます。 (2017年10月16日 1時) (レス) id: d049c82bd5 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ぱふぇ(プロフ) - 実渕 魔理沙さん» かなり捏造してかわいい十座になってますね(笑)今後はクールな十座も出していくつもりなので、楽しみに待っていただければなと…( ˇωˇ ) (2017年10月15日 12時) (レス) id: cd03e2e498 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ぱふぇ(プロフ) - 黒咲@紗奈。さん» 大好きコメントありがとうございます!マイペース更新になると思いますが、気長に待っていただけると嬉しいです(^-^) (2017年10月15日 12時) (レス) id: cd03e2e498 (このIDを非表示/違反報告)
実渕 魔理沙(プロフ) - 十ちゃんかわいい、、、!更新頑張ってください(´∇`) (2017年10月15日 2時) (レス) id: 78269ba3b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:抹茶ぱふぇ | 作成日時:2017年10月12日 20時