鼬の道【ゴールデンカムイ】 (ページ5)

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第伍話: 不敗の暴れ牛ページ5

目には目を、囚人には囚人を。暴動鎮圧の手柄を特別措置として遊女を宛がって貰える牛山としては大歓迎。
長らく溜まっていたからか、暴力への興奮がいつもより早く芽生え始めた。

「ここんとこ最近平和だったからなぁ。この機会を与えてくれたのはかえって嬉しいよ、岩息くん」

口髭が生えた紳士的な印象を受ける牛山は、首を何度も横にして骨を鳴らし、自身の赤い獄衣の襟を引っ張って諸肌を脱ぐ。

リーグ上には岩息の嵐に巻き込まれた看守たちの屍を、牛山は片手で投げ飛ばす。大の大人である看守を人混みへ飛んでいくのを見て、彼の並外れた力を察した。

「ふんッ！！」

試合のゴングが鳴る如く、握り締めたボコボコの指関節が岩息の頬に乱暴に殴り飛ばした。汗と鼻血が飛び散り、それが滴る間もなく更に追撃を食らわせる。劣勢だが、一方岩息は満面の笑みである。

「良い良い良いッ！やはり牛山さんです！
もっと！もっとやってください牛山さぁん！！」

岩息は殴られる度にヒートアップし、顔を殴られても平気な顔して拳を振るう。熱が頭まで上がったが、鼻血がたれ流れても殴るのをやめなかった。

「いいぞぉ！やれ岩息！」

「横腹だ！横腹を狙え！！」

周りの声も相まって岩息が連撃を食らわした。
そして牛山も防御を固めては相手の力を利用して逆に攻撃する。両者ともに倒れることもなく殴り合った。

岩息舞治は嬉しくて更に声を上げる。彼の自己表現は暴力である。しかし暴力を世間が許してくれるはずもなく、こうして対等に喧嘩ができるのは、岩息にとってこの上ない喜びだった。

『……帰ってい？』

「もう少ししたらねぇ〜？」

『えぇ〜？』

そのことを知る由もない弓弦葉は、これに酷く退屈さを感じていた。背が小さくて十分に見れないのでストレスが蓄積していくばかりである。
しかし、拳を混じえた揉み合いも終焉を迎えた。

最後は岩息が疲れで倒れ、牛山はふんっ！と鼻を鳴らし手をぱっぱとするのが捉えた。
囚人たちの余韻の声が漏れる。

見せ物が終わり次々と囚人達は雑居房に帰っていくなか、ガタイの良い囚人の間からなのであまり見れなかったが、一瞥程度、彼の異様な入れ墨が目に止まった。

『(ん？あれ、変わった模様だな？)』

弓弦葉は目を凝らしてそれを見る。彼の入れ墨は白黒の単調な模様で、上半身と二の腕、そして背中も続いて掘られているのがわかった。