第拾陸話: 新しい同房 ページ16
月日が経ち、懲罰期間も過ぎた。雑居房に戻るべく闇堂から出てくると、白石とその他の囚人達がいた。
白石が小さく手を振るのを返し、網走刑務所へ先頭の看守に着いていく。
第三舎まで辿り着くと、どことなく懐かしさを感じた。ある雑居房で立ち止まり、看守は白石をそこに入らせる。同房だからという理由で弓弦葉も入ろうとしたら、慌てて看守は手腕で軽く止める。
弓弦葉は何故だと問うと
「知らなかったか。闇堂に入れられた受刑者は房変えになるのさ。だからお前の雑居房は違うところだ」
『そっそうなのか…』
せっかく房内の雰囲気が和らいできたのに、入れ替わってしまうのかと思いがっくりと肩を落とす。また構築か。
新しく入った雑居房は、前回より一人増えた感じだった。4人だと少し窮屈になるが、気にしない程度である。だが入っても、話しかけてないどころか一人増えても何事もなく過ごしている。
こりゃ、居ずらいところに来たのかもしれない。
と一人、手紙を読んでいる強面だが身長が低い男がいた。後ろからひょっこりと顔をのぞかせる。
「…！うぉい！何見てんだ！！」
『あぁ、ごめんごめん』
4人もいて誰とも話さないのは逆に孤独感を感じた弓弦葉は、ちょっかい出しても追っ払われるだけだった。だが、男が彼女の膝を止めさせる。
「まて、お前…女見てぇな可愛い顔しているんだな」
『はぁ？』
「いやなに、丁度合わないヤツらで溜まっていたんだ。どうだい、今夜目合い(まぐわい)でも…」
『やめろ変態、私は女だ』
伸ばしてきた手にぱしっと叩く。
「なっ、女？！」
それをきっかけに、他の二人の男も多少なりとも圧倒していた。今まで、弓弦葉は同じ女囚を探しても見つからなかったし、彼らの反応も相まって、やはりここはあまり服役されないのだとわかる。
明治の始めの北海道の刑務所は事実上は政治犯の収容所である。当時は女性の政治犯というのは圧倒的に少なかったので、いても特別扱いはせずに東京などの一般の女性の刑務所に収容していた。
『私は葛西弓弦葉、おっちゃん、名前は？』
「…若山輝(き)一郎だ。おっちゃん言うな」
若山はそう言うと、手紙を枕の下にしまい込む。
『手紙か、家族か？』
「フン、お前にゃ関係ねぇよ」
『そうか』
白石と辺見のように物腰が柔らかい人がいないからか、ピリついた空気に嫌になり、畳んである自身の布団に体を填めた。すると、若山の隣にいた男が沈黙を破る。
「アンタが葛西弓弦葉か」
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作者名：S | 作成日時：2024年3月20日 17時
