第拾肆話: 恐れたもの ページ14
看守二人に連れられながら闇堂へ白石と共に向かう。弓弦葉が静粛されるのに打撃を受けた、顔にアザと頬に取り押さえられた時の砂子がこびり付いている。
元々一列に並んでいたが、白石は列を乱して後ろから彼女についた砂を優しく取り払う。
「弓弦葉ちゃん大丈夫？あーあ女の子にこんな残るような怪我さしちゃってぇ…」
『心配するな白石。こんな傷すぐ治る』
「でもさぁ〜〜」
と話していると、最後尾にいた看守から私語を慎めと小言を言われ、白石はすかさず列を直す。暫く無言が続き、そのまま闇堂に着く。
かつて網走刑務所で使われていた闇堂(懲罰房)は一見こじんまりとしているが、窓がなく中は真っ暗で、扉は二重。しかもレンガの壁の厚さは40糎以上もあるという。
明治時代の監獄の規則には、規則違反者を窓の無い真っ暗な部屋に閉じこめ、食事を減らし、反省させるという厳しい罰則があり、この独居房も当時の規則に合わせて建てられたものと考えられていた。
『くれ！(暗い)』
弓弦葉は焦っていた。この際真っ暗な空間に閉じ込められるのは良いとして、食事を減らされるのは彼女が最も恐れていたものだからだ。
そのせいで、やっとこさ解放されても空腹で看守に危害を加えることが多くなり、それ以来、看守達の中では何がなんでも弓弦葉だけはある程度の食事を与えようと決まったのはまだ先の話。
二重になっている奥の扉が開く。突然の眩い光に反射で手で目を覆う。開けたのは一人の看守だった。
「よぉ嬢ちゃん、闇堂の居心地はどう？」
『あ？なんの用よ』
「まぁそう言うな。詫びがしたくて来たんだよ」
『…いや、触ってきたのアンタじゃないでしょ？』
鉄格子の前でしゃがむと、帽子を上にして見せる。それは、先程殴った看守とは違う顔をしていた。
「散々受刑者の正当防衛を見て見ぬふりをしていたが、女性が叩かれるとなるとどうしてもできなくてな。悪かったな、ウチのもんが」
『知ってる？生半可な同情が一番ムカつくのよ』
「ンなら俺の生半可な同情を落ち着かさせる為の糧となってくれ、ほらよ。こっそり持ってきたやつ」
そう言うと、男は懐から白あんの大福を取り出した。弓弦葉の目は一気にキラキラと輝く。
当時、大福は庶民の間でも広く受け入れられ、愛されるようになった。餡や餅の生産技術が進化しつつあり、手軽に大福を楽しむことが可能になっていったからである。
『大福！許す！！』
「俺が言うのもなんだが、チョロいなー」
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作者名：S | 作成日時：2024年3月20日 17時
