第弐話: 狩猟魂の熱い男 ページ2
『ぶわっちぃっ！！』
「弓弦葉ちゃん気をつけてぇ」
第四舎にいる囚人は外役で炭焼きに勤しむ。
無論弓弦葉も例外でなく、初めて黒炭を作るので煙と炎の熱さに難儀した。
火から出たばかりの灰が手に着き、熱さで思わずパッパと払う。気づけば他の人より遅くなっていた。
白石と協力して木炭を作っているのだが、足を引っ張っていて申し訳ない。
「冷えた体に過熱が勃起する！！」
ビクッと身体が跳ねる。声の主は白髪が混じえた初老の男。甲高く笑いながら薪をくべる作業を進めていた。
彼と共同作業している囚人は、その迫力に圧倒され寧ろドン引きで何もしておらず、ただ後ろから見ていた。
火入れに薪を入れて窯の中の温度を均一にしながら、寒さにいじけもせず働くあの男に感心を抱いた。
『あのおっちゃん、こんな寒いのに凄いなぁ』
「ン〜？どのおっさんのこと？」
白石の声で男はこちらに気づく、彼は炭焼きの火入れを終えたのか、ズカズカと向かってくる。
「ほぉ、網走監獄は男ばかりしかいねぇと思っていたが、まさか女がいるとはな…」
「お、おっさんはおっさんでも二瓶のおっさんか」
「白石ィ…女は恐ろしいぞ？せいぜい気をつけることだな。……あー、お前じゃちと難しいか！」
「うっせぇ！」
二瓶と呼ばれた男は白石の肩に拳で軽く殴りつけ、またカラカラと笑うと、再度弓弦葉を見る。
彼は豪快な一方で、先の話した台詞に女性への警戒心を感じた弓弦葉は少し違和感を感じていた。
「網走監獄の労働は死者も出る程に過酷だ。お嬢さんの体じゃあ、一体何日持ち堪えるかな」
『…それは私を舐めてるね。これ着痩せだから脱ぐと凄いよ？私の筋肉は三米(メートル)のヒグマも圧倒する』
「キミ可愛い顔してそんなだったら俺は泣くよ？」
「はっはっは！奇抜な返し方だな！」
近くの薪小屋から薪を持ってきて火入れにくべると、彼女は腰を上げ、腹部をパンパンと叩きながらそう言った。服越しに顕(あらわ)になる筋肉の形からして、お世辞にもこわばっているとは思えない。
「フン、お前は何だかんだで生き残っていそうだな。そこの関節脱臼妖怪みたいに」
「ねぇもしかしてそれ俺のこと？ねぇ？」
『えっ白石…』
「違うよぉ？」
『いや、まだ何も言ってないでしょ』
ここで、弓弦葉は白石の特異体質と脱獄を繰り返している脱獄王だと知った。何も痛む様子もなくポキ、と鳴らせば関節が外れる。確かに妖怪だと納得した。
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作者名：S | 作成日時：2024年3月20日 17時
