鼬の道【ゴールデンカムイ】 (ページ1)

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第壱話: 津軽弁の女囚ページ1

第三舎のある雑居房に放り投げられ、雑に扱った看守に腹を立てながらも、真冬の房室の床は酷く冷たいことに気付いて自分の布団へ移る。
案の定布団も冷たいが、床よりはマシだった。長いパイプがついた薪のストーブでも、あまり暖かくならないのが触ってわかる。

弓弦葉はできるだけ部屋の隅へ移す。周りを見ると彼女の他に、二人の男が収監されていた。枕に背を向けてくつろいでいる男と、かたやは普通にあぐらをかいていた。

「あぁ、布団も冷たいだろう？だが生憎俺らも自分の布団をケツであっためるのに忙しくてね」

手を頭の後ろに組む彼はおちゃらけた様子で話しかけてくる。そんな男に弓弦葉は少し親しみやすさを感じた。

これから長く一緒に居る人達だ。初っ端から悪い印象を受けさせる訳にはいかない。

『おめんど、名前はなんてしゃべる？』

「人に名を尋ねる時は先(ま)ずは自分から名乗るのが礼儀っちゅうもんじゃないかぃ？」

『…葛西(かさい)弓弦葉』

「俺は白石由竹！……あ、独身で彼女はいません、付き合ったら一途で情熱的です！」

白石と名乗る灰色の坊主は弓弦葉の全体を見つめると、何かに気づいたのか急にお見合いのような挨拶をしてきた。彼女は突然のことに驚き、もう隙間もない部屋の隅へ膝を進めた。

「女性だったんですね、気づきませんでした」

『おっかね、寄るな！ちょすな！(触るな)』

「クーン…」

四つん這いで寄ってきた白石を、訛りが混じった口調でしっしっと手のひらで追っ払う。彼はちょっと悲しげな顔をしながら布団へ戻った。

「女性であろうと一緒に同房するなんて、看守達も容赦がないですね…辺見和雄です。よろしくお願いします」

『よろすく。なんも、襲わぃだっきゃのれそれふったつける(大丈夫、襲われたら思いっきり殴る)』

「な、なんだって？」

『あやった(しまった)…ごめん、住みが陸奥なもんで』

白石が指摘するまで全然気づかないくらい無意識に訛りがでてしまったので、弓弦葉は小っ恥ずかしくなった。

「へぇ、弓弦葉ちゃん東北地方から来たんだ。
なんでまた北海道なんかに？」

陸奥(むつ)とは、磐城(いわき)、岩代(いわしろ)、陸前、陸中、陸奥の5か国の古称。今の福島、宮城、岩手、青森の4県にほぼ相当する。現代では、東北地方をさしていうこともある。

『…一攫千金を夢見て移ってきた』彼女はそう言って頭を俯くと、それ以上は話そうとはせず、体育座りで交差した両手をぎゅっと握った。