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――――――
ある日の放課後、
図書室の奥のほうで 眠っていると、
「俺、伊野尾君のこと、ずっと見てて……伊野尾君のこと 守ってあげたいな、って思ってたんだ。だからっ、俺と、付きあってくださいっ!!」
緊張に震えた声とは うらはらに
情熱的な 愛の言葉が、耳に とびこんできた。
「……んん？」
いのお…？
あぁ、姫のことか…
記憶をめぐらせ、頭に浮かんだ "いのおけい"の顔。
"いのおけい"
入学当初から
周りに「姫」だの「蝶」だのと もてはやされている男。
何度か 見かけたことはあるが、
周りに男を はべらせ
にこにこ。ふわふわ。
俺から言わせてみれば「ただの 頭の弱いお姫様」で、
まったく、興味が わかなかった。
男にモテるなんて 大変だな…
こころの中で そうつぶやき
ふたたび眠りにつこうと 瞳を閉じたが、
『俺を、何から守ってくれるの？』
おそろしいほど 低い声に、
俺は すっかり瞳が覚めてしまった。
「は…？」
なんだ、今の…
「伊野尾、君…？」
『"伊野尾君を守ってあげたい"って、何から？
交通事故？病気？災害？お前、そんなこと出来んの？』
「いや、そういうんじゃなくて…いじめとか、かなしいこととか、くるしいこととか…」
『あ、なに？君を悲しませる すべてのことから守りたい、とか、そういうヤツ？』
「う、うん…」
『うわ、出たよ……で、俺には ずっと笑っててほしい、とか言うんだろ？俺のこと、泣きも怒りもしない、笑い人形にするつもりかよ。
お前 それ、"人間やめろ" って言ってるのと 同じだぞ？』
「そ、そんなつもりは…」
姫の おそろしいほどの正論の オンパレードに
段々、涙声になっていく 男の声。
なんだよ。”伊野尾君のこと、ずっと見てた”んじゃないのかよ。
とんでもない男に ケンカふっかけやがって…。
あまりにも 哀れで、滑稽で、
腹を抱えて 笑いたいほどなのに、
「あ、れ…？」
なぜだろう。
涙が ぽろぽろと こぼれ落ちてきた。
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作者名：本田
| 作成日時：2017年10月9日 1時
