無感情と憑き物 ページ13
逃げ惑う人々は濁流のように僕とは反対の方へ向かっている。鯉のように必死に上っても上っても時々誰かの肩にぶつかり押し戻されてしまう。
何故こんなにも混沌としているのか、その理由は打ち壊しである。
近辺のちょっとした裕福層、つまり地主であったその人がどうにも権力に物を言わせて辺りを支配していたらしいのだ。それで怒りが爆発した一人の民が兵を挙げた。
今こそ革命の時だ！ と。自分を革命家の生まれ変わりとでも信じているみたいに、安々と成功してしまった。
「はあ……これが言ノ葉連合の政府への挑戦状なんて言われたら面倒臭い」
今日の事を早いうちに忘れて帰ろうと来た道の方へ向くと猫が立っていた。黒の毛並みの、月のように輝く目をしている。首輪をしているので飼い猫だと分かった。
一つ不可解なのは体から血が垂れてくるのに対してあまりにも元気な事。
試しに一歩近ずいても物怖じしないところを見ると人馴れはしているらしい。また距離を縮めるも猫は毛繕いをしていて逃げる気配もない。
「ネーム見せてね……君、ご主人様が居なくなっちゃったんだね。おいで」
手を差し伸べると血のついた顔を擦り寄らせてきた。
本当なら愛らしいはずなのに、今はとても悲しい。──しかし理由は分からない。
そのまま抱き寄せて自分の胸の中に収めたのを確認すると歩き出した。
流石に普段は面を付けるわけにはいかないのでパーカーのフードを被っている。どちらも通報されるのは変わらないので早々と立ち去る必要があったのだ。
「家に着いたらまずはその血を落とせばいいのかな？ 名前どうしよう」
帰路の途中に何度か猫は後ろを見つめていた。飼い主が恋しいのか、僕の後ろに何か憑いているのか。
どちらにせよ関係無い。早く帰る為に鏡を広げて空間に潜り込んだ。
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