胸ポケットには千日紅を【雪男】

硫黄の匂いに溶け合って。4*sk ページ18

「……おっ……まじか…」


夜中、トイレに行きたくて目が覚めると、俺の胸に擦り寄ってすやすや眠る阿部ちゃんが。

いつもの癖で俺も抱きしめながら寝てたみたい。

おかげで体がポカポカあったかい。



「…珍しいね、阿部ちゃんのデレ」


やさしく髪を撫でて、そっとおでこにキスをする。

もぞもぞ動いたかと思いきや、きゅっと俺の浴衣を握り直してくるのがたまらなく可愛い。

そのままゆっくり耳を撫でて、首筋を指でなぞる。


「……んっ、…」


ぴくりと跳ねる肩。

よく見るとほんと、睫毛長いしかわいい顔してるよね。


(…阿部ちゃんから布団入ってきてくれたってことは、いいよね？)


トイレに行きたいなんて気持ちも吹っ飛んで、覆い被さった。

浴衣を脱がせようと、滑らかな肩が現れた時…







『『さっくん、やくそく、まもってね！！』』







かわいい子供たちの笑顔が浮かんで、手が止まった。

…ウッ、翔太…こうかはばつぐんだよ。



「…ん、……さくまさん？」

「あ、ごめん起こし…」

「………え？」

「……あ、」


眠そうに瞬きする阿部ちゃんの目には、思いっきり浴衣を脱がせようとしてる俺。

一瞬で耳まで真っ赤にした阿部ちゃんの右手が、容赦なく俺の左頬を引っ叩いた。











「わぁ、このクロワッサンすごいふわふわ！」

「そだねぇ」


朝になっても若干の痛みを残す頬。

阿部ちゃんはそんなのお構い無しに朝食を堪能してる。

いや美味しいのは間違いないから、俺も堪能すべきか。


「今日はどこ行きたいとか決まってんの？」

「大体こんな感じのルートで歩きたいなって思ってるんですけど、佐久間さんは行ってみたい所とかありますか？」

「んーん、任せるよ。せっかく調べてくれたんだし」


パリッと音を立ててクロワッサンを頬張る阿部ちゃんは、ちょっと照れくさそうに微笑んだ。

俺もお皿に盛られたフワフワの卵焼きを口へ運ぶ。

うん、美味しい。…けど、なんだろうね。物足りない。


「……佐久間さん？どうかしましたか？」

「ん…いや、卵焼き美味しいんだけどさ。阿部ちゃんの卵焼きが好きすぎて、なんか感動できないなぁって」

「へ？…えっと、あ、ありがとうございます…？」


頬を染めてへらっと笑う阿部ちゃん。かわいいね。

浴衣もいつもと雰囲気違って新鮮だし、色っぽい。

ほんとならキスしたいんだけど、卵焼きを噛む度に痛む頬がダメだって言ってくる。



朝食を終えたら着替えて、草津の街へ出発だ！

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