花冠にはすずらんを【雪男】

深海たゆたう虹になれ。3*ab ページ20

散々泣き喚いて、真っ赤に腫れた瞼が重い。

佐久間さんが俺の顔を覗き込んではニャハッと笑う。


「…すみません、」

「誰も居ないし大丈夫。落ち着いた？」

「はい、ありがとうございます」

「よし！じゃあお昼食べて、携帯買いに行こ！」

「………はい？」

「持ってないっしょ？何かと連絡取れないの困るし、未成年はひとりで契約できないから。一緒に行こ」

「え、でも…」

「おなかすいた〜なに食べる？」

「ちょ、佐久間さん！」


佐久間さんって、ほんとに自由なひとだ。

海を泳ぐクラゲみたいに…ゆらゆらふわふわ。

でもその自由は、俺と康二へのやさしさゆえだと、嫌でもわかる。



(…あ、きれい、)



前を歩くピンク色の髪が、虹色の光に淡く色付いて揺れる。

それに触れてみる勇気はまだないけど、少しだけ早歩きして肩を並べた。

やっぱり蕩けそうなほどやさしい笑顔が、隣から俺を見つめてくれた。







お昼は以前、佐久間さんが渡辺さんと行ったというラーメン屋さんにした。

どうやら蓮くんのお眼鏡にかなうチャーシューがあるらしく、行ってみたかったんだよね。


「うまっ！」

「ん！うま！」


このお店は深澤さんに教えてもらったんだって。ラーメン屋巡り、大人って感じだなぁ。

ふたりでペロリと完食したら、人生初の携帯ショップ。

機能とか全然わかんないし、電話とメールができればなんでもよかった。



ほんとは中学生に上がった頃、そろそろ携帯買うかって父さんに言われてた。

あの保母さんが携帯なんて持たせてくれるはずもなく、欲しいなんて到底言い出せない。

中学の友達とは連絡先を交換できずに卒業したから、残念だけど仕方ないと思ってた。


「契約者様はご家族ですか？」


契約カウンターでお姉さんにそう聞かれ、佐久間さんはにぱっと笑う。



「家族です」



…やば、また泣きそう。こらえろ。

必死に下を向いて耐えながら、長い説明を聞き終えてショップを出た。

オレンジがかってきた空を見上げながら、佐久間さんは自分のスマホを取り出す。


「連絡先交換、1番乗りしていい？」

「…もちろん」


初めて持ったスマホに、初めて登録された名前。

佐久間 大介。

なんだか胸の奥がムズムズする。



運転中の佐久間さんに口頭で使い方を教えてもらいながら、一緒に康二を迎えに行く。

いつもは俺か佐久間さんどちらかのお迎えだから、ふたりでのお迎えに康二はピョンピョン飛び跳ねながら抱きついてきた。かわいいな。

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