もしもし、あなた

41*M ページ41

走っている間、玉はずっと俺の名前を呼んでいた。

時折切なそうに、眉根を寄せて。

言葉がわからない玉にも、俺の気持ちは通じているのだろうか。


(…守りたい、それだけ…)


堕天人が俺の元へ玉を落としたのは、きっと運命だったのだと。

俺の気持ちを、俺の人生を、たくさん塗り替えてくれた玉。

なんなら玉に真っ白な翼が生えた時から、俺たちは出会う運命だったんだよ。



言葉の理解がなくたって、


「たま…っ」


ごはんを口いっぱい詰め込んで、まんまるい目を輝かせた時。


「俺はね…」


シャワーから出たお湯にびっくりして、素っ裸で俺に飛びついてきた時。


「玉が…、」


可愛らしい寝顔に、時々聞こえる辛そうな吐息も。



「だいすきなんだ」



初めて交えた唇の感触は、永遠に忘れない。


いつの間に夢中になったのだろう。

誰にも渡したくないし、ずっと一緒に居たい。


「みや、た」


だから…


「…もしもし」


そんなに、切ない笑顔で見つめないで欲しい。









「…くっ」


ようやく足を止めたのは、逃げるのを諦めたわけじゃない。

目の前は崖で、視線の先に映る地面はめちゃくちゃ遠いから。

振り返れば天使たちが追ってきて、でも前には逃げられなくて。


「…ちくしょう！！」


ここまでなのか。

守りたくて仕方ない、まだまだ一緒に居たいのに。


その場にうずくまって、玉の体を抱きしめた。

大勢の足音は、どんどん近づいてくる。


「…いやだっ！たま、たま…！」


情けないけど、涙が止まらない。

力の限り玉を抱きしめて、その柔らかい唇に噛みついた。



「…ん、」


玉はそれをやさしく受け入れると、そっと俺の頬に手を伸ばす。

細長い指が、するすると肌を撫でていく。

それが、俺の涙を拭ってくれているんだと気付いたら、余計に涙は溢れてくる。


「…ふふ、みやた」


いつの間に宮田と呼べるようになったんだろうか。

そんなことどうでもいい、足音に紛れて天使たちの声も聞こえてきた。

ーーあぁ、もう…だめなのか。



「みやた、がじゃいも！」

「…え？じゃ、じゃがいも？」

「ともろし、ぶにく、らぶらーぶ！」

「…とうもろこし、豚肉、…ラブライブ……だよ」


俺が教えた言葉を、笑顔で話し出す玉。

何を言いたいのかはわからないけど、俺も必死で笑顔を作った。

玉はにぱっと笑うと、俺の腕から抜け出した。


「…たま？」

「みやた、もえきゅーん！」



その足が向かうのは、天使たちの方だ。

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