もしもし、あなた

5*M ページ5

俺が包帯を取って血を止めている間も、彼はずっと“にぽん、にぽ〜ん”と呟いていた。

…あれだよね、外国の人とかって、日本に憧れを持ってたりするから。

もしかしたら日本が大好きで、いつか来てみたいと思ってた〜、嬉しい〜的な？


(…ならせめて、名前ぐらい知りたい…)


血が止まってくれたのを確認すると、彼の肩を掴んで向き合った。

あまりにも白くて艶のある肌に少しドキッとしたけど、必死に彼のくりくりな瞳を覗き込んだ。


「ね、俺。みやた、っていうの。み、や、た」

「？みゃー」

「…くっ」


可愛いけど…めげない！


「み！み、や、た！」

「みゃーた」


(なんか猫みたいな…)


みゃー太って言われてるみたいだけど、とりあえず復唱は完了。

次は自分を指差して、もう一度。


「俺のことね。みやた」

「みゃー、た」


“た”と一緒に、俺を指差した彼。

どうやら“みゃーた”が俺だということも理解してくれたみたい。


「きみは？」


彼を指差して尋ねると、少しだけ目を泳がせて、弱々しく首を振った。


「…ん？」

「んーん」

「……もしかして、名前ない？」


なんとなく言いたいことを察してくれたのか、彼は俺を指して“みゃーた”と言うと、自分を指して首を振った。


「…そっ、か…」


しょぼんと俯いてしまった彼。

…あぁ、かわいいけど、違うんだよ。

さっきみたいに、もっとこう…花が咲いたみたいな。


「…ね、えっと…。もしもし？だっけ」

「…？もしもし？」

「うん、ほら。もしも〜し」


わざと笑顔で、唯一共通する言葉を言ってみた。

彼はぱっと笑顔になると、


「みゃーた、もしもし〜！」


(…そう、この笑顔だよ)


飛びきりかわいい笑顔で抱きついてきた。








もしもし、は…電話の第一声だよね。


ていうことは、この子の国ではあいさつ的な何かとか？



最初に話した言葉も、もしもしだったし。


にぽんもしもし〜っていうのも、日本こんにちは！よろしくね！なノリなのかも。




都合のいいように解釈してみると、思ったより辻褄が合った。

とりあえず彼の血だらけの服は軽くもみ洗いしてから洗濯機に放り込んで、俺のＴシャツを着せてみた。


「…くっ！！」

「？？」


なんだろうか、俺よりは身長高いんだけど。

…なんで俺のＴシャツがブカブカなんだろう…肉厚の差？


(リアルな彼シャツが現実に…！！)




こうして新たな二次元を見つけた俺は、傷が治るまでこの子を家に置いておく事にした。

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