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39*Y ページ39

片翼しかない玉が、息を切らして涙ながらに首を振って。

追っ手だと、捕まるのだと。

その涙に、この堕天人は心揺れたらしい。

玉の手を引いて、人間界へ続く空に来た。


人間界に逃げれば、そう簡単には追跡できない。

なぜなら堕天人たちには、翼もなければ追跡する力も無いから。


『ニンゲン、まぎれれば、きっと、しあわせ、なれる』


“幸せ”。その言葉に、玉の翼は疼き出す。

引き抜かれた傷からは血が溢れ、羽根は毟られるほどの痛みが襲った。

苦痛に悶える玉をなんとか助けたくて、この堕天人はその翼を握る。

同時に、自らの持つ最大限の“癒す力”を、玉の額に当てた。

翼を握る手に、全身から力を込める。

玉の口からは、絹を裂くような悲鳴が響く。


勢いよく引き抜いた翼を、自らの力でなんとか最小限の傷まで抑えて。

だがその時、堕天人の力を取り入れすぎたからか、玉の髪色がどんどん白くなっていった。

同時に玉の意識が途絶え、その場に倒れてしまう。

この堕天人は、泣きそうになりながらも人間界を見回した。


そして、みつを発見したのだ。


みつなら、玉を助けてくれる。

そう確信したはいいものの、みつが住んでいるのはマンションの一室。

建物に玉の体が打ち付けられたら、人間より丈夫とはいえひとたまりもない。

そんな時、みつのマンションに太輔が帰ってきた。

この堕天人は、太輔の会社の鞄を見て、同じ鞄を持って今外にいる人は居ないか探した。



そして、見つけたのだ。


公園でひとり、ビールを飲む宮田を。



『どうか、みつに、とどきます、ように』


そんな想いを込めて、泣きながら玉の体に白くペイントをしていく。

玉が“永遠の白”に選ばれて、傷つき、逃げて、人間界へ来たのだと。

これならみつも、わかってくれると信じて。


自分の手で、雲を切り開いて。


宮田の傍にある茂み目がけて、そっと玉を落としたのだ。





「…たま、しあわせ、なった?」



話を終えた堕天人は、俺を見つめながらぐちゃぐちゃに泣きじゃくる。

こんなに優しい堕天人も居るんだと、俺の視界も涙で歪む。


「……うん。…君があの時、見つけた人間は……玉を、誰よりも愛してくれているよ」


黒い塊が、すぐそこまで来ている。

近くの木々が飲み込まれて行く中、俺はそいつに深々と頭を下げて…飛び立った。


「……よか、た…。たま、しあわせ、なれた……」


少しだけ振り返れば、そいつの居た場所は既に真っ黒く覆われていた。

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- 初めまして。ひっそりファンで何度も作品を読み返している者です。すぐ引き込まれて読むのがいつも楽しいです。題材材料となる専門的知識がすごいですね。しっかり勉強熟読して作品にされてるからファンタジーでも抵抗無く読めるのだと思います。更新嬉しかったです。 (2020年12月7日 14時) (レス) id: 86cd2f1e13 (このIDを非表示/違反報告)
nanaco(プロフ) - こんばんは(TT) おまけのお話、すごく大切に読ませて頂きました……図々しくもSNSで作品名を出させて頂いた者です(;ω;) 作品の世界にどっぷりとハマり数日間余韻が抜けなくて^^; がじゃいも…の台詞のところで涙腺やられました(TT) 本当に大好きな作品です… (2020年12月6日 0時) (レス) id: a7b3edb10a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - シンプルにすばらしいです…なきました (2019年8月28日 17時) (レス) id: f95f9b47d8 (このIDを非表示/違反報告)
なぁ(プロフ) - はじめまして。読み始めたら止まらなくて一気に読んでしまいました。まっしろたまちゃんかわいいし可哀想だし読みながら号泣してしまいました…!素敵なお話ありがとうございました!谷森山さんの他のお話も読ませていただこうと思います (2017年6月20日 1時) (レス) id: 6204cccf27 (このIDを非表示/違反報告)
谷森山(プロフ) - ひよさん» はじめまして。お返事遅れまして申し訳ありません!最後までお付き合いくださりありがとうございました!ご満足いただける作品になっているようで安心いたしました!たまちゃんは永遠の天使です(ドヤァ)他作品でも、またよろしくお願いしますね(*^^*) (2017年6月6日 18時) (レス) id: 9b9168131d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:谷森山 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2016年6月15日 4時

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