もしもし、あなた

4*M ページ4

言葉が通じない相手に、どうやって名前を聞いたらいいのだろうか。

俺が何回自分を指しながら「みやた、みーやーた」と言っても、首を傾げて理解していない様子。


(…もしかしたら、もしもしって名前？いやまさか)


考えていても仕方ない。

とりあえず封の開いたさきいかを目の前でちらつかせてみる。


「…さきいか、食べる？」

「………？」


彼はうつ伏せだった体制をゆっくり起こすと、俺の指に摘ままれて揺れるさきいかをコロコロと瞳で追った。

少しだけ鼻に近付けて匂いを確かめると、さきいかの端っこをちまっと唇で挟んだ。


「よく噛んでね、モグモグ」

「………」


言葉が伝わらない分、片手を頬の横でジェスチャーして伝えてみた。

彼はキョトンと俺を見上げながら、端っこを前歯でちまちま噛み始める。

思ったより味が出てきて驚いたのか、ちょっと目がまんまるくなったのがなんだか可愛い。


「…美味しい？…あ、言ってもわかんないか」


噛んでいた部分を飲み込んだ彼は、口を開きかけて閉じ、少し考えてからパッと俺を見つめた。




「ん〜っ！」





両手で頬を押さえた彼は、目一杯の笑顔で首を傾けた。

ちいさい子とかがよくやる、「おいしい」ポーズ。




…え、





え、まって。









(…っ、萌えかよ！！！！！)








あまりにも可愛らしいその仕草に、思わず鼻血が出かけた。

慌てて天を仰いでそれを防ぐと、彼の不思議そうな視線に気付いて笑顔を貼り付けた。


「おいしいなら、なによりだよ」


口を開きかけて閉じた所を見ると、たぶん彼も俺に言葉が通じないことを理解したようだ。


「ここ、日本。…えっと、出身…ホェアー、アーユー、フロム？」

「…？……にぽん…」

「そう、ここ。日本。アニメ大国」

「にぽん！」

「えっ」

「にぽん！にぽん！」

「わっちょ…え？！」


彼はいきなり飛び跳ねて喜び出し、俺の腰に抱きついてきた。

…なにこれ！かわいいんだけど！！


「…え、と…日本、は…知ってるのかな」

「にぽ〜んっ」


俺のお腹に、すりすりと頭を擦り付けてくる。

あまりのかわいらしさに、思わずその細い髪を撫でた。

彼は気持ちよさそうに微笑むと、パッと顔を上げた。


「にぽん、もしもし〜！」

「も、もしもし〜…？」

「ふふ。…っ！」

「わわっ、血が！」


背中に回された腕に、力がこもる。

ふと彼の背中を見れば、包帯から滲む血が。

慌てて彼を引き剥がし、タオルと救急箱を取りに急いだ。

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