もしもし、あなた

17*Ki ページ17

ちょっとだけ三人には玄関先で待ってもらい、寝室へ向かった。

見た目とは裏腹にメルヘンな、藤ヶ谷の枕元。

５つ並んだぬいぐるみから、適当にひとつ抱えて玄関へ戻った。


「ちょ、北山それっ！」

「べつに捨てたりしねぇよ。ちょっと貸して」

「う、うん…」


かわいらしいクマのぬいぐるみを顔の前に持ち上げて、玉の前にしゃがんだ。

玄関の縁に腰かけた玉は、首を傾げながらも可愛らしいそのフォルムに微笑んだ。


「たまちゃん、もしもし(高音)」

「「………」」

「やめろよお前らそんな白い目で見るな」


突然の俺のアニメ声に、藤ヶ谷と宮田は真顔で見つめてくる。

ちょっと痛い視線を無視しながら、クマのお腹をぺこんと曲げて玉にお辞儀をさせた。

玉は素直に頭を下げて微笑む。


「んふふ、もしもし」

「…これが、“はじめまして”な」

「「うんうん」」


続いてクマを玉の肩に乗せて、柔らかい頬に頬ずりさせた。


「たまちゃん、もしもし(高音)」

「んふ〜、もしもしっ」


玉はクマの頭を撫でて、もふもふの鼻にチュッとキスをした。


「今のが、“仲良くしようね”とか“よろしくね”」

「「ほう」」


次はクマを床に置き、俺自身が玉の前に座る。

玉はにっこり微笑んで、ギュッと抱きついて来た。


「みつ〜」

「玉、もしもし」

「ふふ〜！もしもしっ」


さらさらした髪を撫でてやれば、心地良さそうにすり寄ってくる。

宮田は少し羨ましそうに、藤ヶ谷はちょっぴり眉根を寄せてそれを見ている。


(わかりやすく嫉妬すんなよふたりとも…)


「…今のって、愛がどうのって事じゃないの？」

「あのな宮田、俺とお前は玉と一緒に居た期間が違うんだよ」

「…うん？」

「今の俺たちの“もしもし”は、友達とか家族とかが使う“すき”と同じ」

「…じゃあ北山、俺が玉に“もしもし”って言ったら？」

「状況とか表情にもよるけど。とりあえず、会ってそんなに経ってない人から、笑顔で目線を合わせての“もしもし”は…“あなたを愛させてください”って感じ」

「「…む、難しい…」」


多少のニュアンスは違えど、挨拶は大体こんな感じだ。

天使同士なら“もしもし”だけで会話する事もある。

たぶん、人間が使いこなそうとするのはまず無理だ。


(…でも、あの人見知りの玉がねぇ…)


こんなにもすんなり、愛に答える返事をするなんて。

宮田は安心できるっていうインスピレーションが働いたのかな。


「みつ〜、もしもし〜」

「ん、俺も」

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