“ただいま”のぬくもりを

思い出は藤袴*T ページ30

どれほど泣き続けただろうか。

すっかり体も冷え切り、指先から震え出してきた頃。



「……玉？」



後ろから聞こえた、安心する声。

未だ溢れる涙もそのままに振り返れば、そいつは弾かれたように驚いて自分の上着を私の肩にかけてきた。


「どっ、どうしたの！？どこか痛いの？大丈夫？」

「…っ、みや、た…っ」


いつ見ても優しくて、安心させてくれる笑顔。

いまはちょっぴり情けなく眉が下がってて…本当に私を心配してくれてる。


「…う、うぁあぁぁあ〜っ」


上手く言葉が出て来ない私を、宮田はしっかり抱き留めてくれた。

その腕の中が暖かくて、優しくて…


あぁ、やっぱり…好きなんだ。







「俺ね、今日誕生日なんだよ。…図々しくも玉に会いたくてさ。自分から会いに来ちゃった」



優しく髪を撫でてくれる宮田。

落ち着いた頃に、ぽつぽつと打ち明けてみた。


…おろしてほしいとか、謝られたりしたら…立ち直れないかもしれない。


不安に思いながらも、自分のお腹をそっと撫でながら…宮田の顔は見ずに話した。


「…赤ちゃん、いるの。……お前の…」

「…………」


宮田はしばらく黙り込んだ後、私の肩を優しく掴んで顔を覗き込んだ。


「…本当に？」

「こんなことで嘘、つけない…っ」

「…そうだよね…」

「……………」


(…お願い、謝らないで…)


心の中で祈っていた私の思いを知ってか知らずか、宮田はゆっくり口を開いた。





「…ありがとう」




体調悪いって言ってたもんね。

苦しませちゃったし、悩ませちゃったよね。

…でも、悩んで悩んで…泣いてくれるんだね。


玉、ありがとう。




宮田は一筋だけ涙を流すと、強く…でも優しく抱き締めてくれた。

そして、ふたりにしか…いや、三人にしか聞こえない声で呟いた。



「…俺、頑張るよ。…絶対ふたりを幸せにしてみせる」



ー結婚しよう。ー








その足で、宮田は父と母に挨拶に来た。

父は最初殴る気満々だったけど、宮田の優しさと根強さに…目頭を抑えながら堅く握手をした。

母も泣き続けながら、何度も頭を下げる宮田に何度も頷いた。


ー娘をよろしくお願いします。ー



そして春、私が16歳になってから、私たちは籍を入れた。

その年の5月、無事に渉が生まれ、

11月にちょっぴり遅い結婚式を挙げた。









「まま〜？」

「………」

「まま、ねんね？」

「………」

「おふとん、かけなきゃ」

「………」

「おやしゅみ、ままぁ〜」





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