検索窓
今日:13 hit、昨日:14 hit、合計:224,588 hit

思い出は彼岸花*T ページ29

「…はぁ」


今も時々、夢を見る。

高校時代の甘酸っぱい、ほろ苦い思い出の夢。



「ままぁ〜」

「ぐぇっ」


隣で寝ていたはずの、可愛い娘。

いつの間にか起きたみたいで、思い切りお腹にダイブしてきた。

その愛しい髪を撫でながら、いまの幸せを噛みしめてみたりする。









「うぅ…」

「玉、また保健室行くの?」

「うん…なんだろ、最近体調わるくて…」

「大丈夫?ついてってあげる」

「ありがと…」


夏休みも終わり、秋の学校生活が幕を開ける。

私は専ら体調が優れなくて、何度も授業を休んだ。

そのたびに友達や先生が様子を見に来てくれてたんだけど、とうとう学校に行く体力もなくなってきた。


「…お母さんごめん、休む…」

「ちょっとあんた、大丈夫なの?…学校には連絡しとくから、病院行こうか」


母に付き添われて来た病院。

内科の先生が少しお腹を触診して、ゆっくりと首を振った。


「…内科ではなさそうですね」


案内された、産婦人科。

母は大層驚いたけど、それより私の方が驚いた。






「おめでとうございます」




おめでたい気持ちなんて沸いてこなかった。

感動よりも、どうしたらいいかわからないという意味で泣き崩れる母。



私のお腹に、命が宿っている。



そんな実感も湧かないまま、家に帰ると父には頬を叩かれて、母には泣いて縋られた。


「どこのどいつだ、言え!」

「無理よ…あんたに、子供なんてまだ…っ、お願い、おろしてあげて…っ」


ふたりの重圧に耐えきれず、重い体に鞭打って外に飛び出した。

肌寒い秋の夜、ただ満月が綺麗なだけの夜。


ひとり歩く私は、ひとりじゃなくて…



「…赤ちゃん……」



お腹を撫でてみても、何もわからないけど。

確かにここに、命があるんだ。


そう考えたら、どんどん視界が歪んだ。

冷たいコンクリートの道に座り込んで、ただ泣き続けた。



寒いけど、冷たいけど、お腹は気持ち悪いけど。

でもこの命に、寒い思いはさせたくなくて。


無意味とわかっていたけど、お腹だけは両手で暖めながら泣いた。



誰の子供か、なんて…

ひとりしか思い当たる節はない。


むかつくけど、優しくて。

うっとうしいけど、暖かくて。

笑ってても、キュンとする。



「…宮、田…っ」



そのひとの名前を呼ぶと、お腹の子も少し喜んでいる気がした。

やたらとそれがリアルで、この命は現実なんだと実感して。


声を殺しながら、泣き続けた。

思い出は藤袴*T→←せつぶんぶん*M



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (343 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
640人がお気に入り
設定タグ:宮玉 , 藤北 , Kis-My-Ft2
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

谷森山(プロフ) - たみさん» もうおたまママからしたら、「えっ?太輔みっちゃんと結婚するんだよね?」の勢いですね笑 続編もちまちま作成していますので、そちらもお付き合いくださいますと嬉しいです〜(*^^*)お願いいたします(^o^) (2016年5月16日 13時) (レス) id: 2433512750 (このIDを非表示/違反報告)
たみ(プロフ) - 甘々カップルエピソードも気になります!w ドキドキしてるたいぴーかわいいです。これからも楽しみに読ませていただきます。ファミリー大好きです。 (2016年5月4日 18時) (レス) id: ab325a56e8 (このIDを非表示/違反報告)
谷森山(プロフ) - (・8・)さん» ご感想ありがとうございます(*^^*)!なんとお兄様と読んでくださって!?光栄です(∩´∀`∩)優しいお兄様なのですね、私もほっこりしました(*^^*)よければ今後のお話も、お付き合いくださいますと嬉しいです。 (2016年4月8日 4時) (レス) id: 2433512750 (このIDを非表示/違反報告)
(・8・) - こんにちは!ことりです!私は末っ子でみっちゃんみたいな感じなんですよ…年の離れた兄が4人もいるので、この小説を二番目の兄と見てボロボロ泣きました。親が共働きでほぼと言っていいほど兄にお世話になっているので…この小説で家族の絆が強まりました!! (2016年4月6日 20時) (レス) id: 517f0d7eb3 (このIDを非表示/違反報告)
谷森山(プロフ) - 345さん» ご感想ありがとうございます(*^o^*)おお、お子様がたくさんいらっしゃるのですね。恥ずかしながら私も母に感謝の言葉を述べた事がないので、お話を作りながら色々考えてしまいました(笑)。こちらこそ、素敵なコメントありがとうございました(*^^*) (2016年3月29日 6時) (レス) id: 2433512750 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:谷森山 | 作成日時:2015年11月13日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。