昨日の約束

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俺はそんな藤ヶ谷の気遣いが嬉しくて居心地良くて。性格悪いかもしれないけど気付かないフリをした。次の日、風邪を引いておらずきちんと登校した藤ヶ谷を見て心底安心したのを覚えてる。

自分が濡れることを厭わずに、俺を庇ってくれた。それが何よりも心をくすぶった。普段、結構おちゃらけてばかりいて本当に友だちだったから。そういうところで愛を感じていた･･･遠い昔。
俺らは性にも興味なく、キスなんてしたことなかったし。そういう話題になることもなかった。
そんな藤ヶ谷とこの前キスをした。


今思い出しても、顔が身体が熱くなる。


ダメだ。講義に集中しなくては。
口元がニヤけてしまうのをなんとか抑え、教授の方に顔を向けた。
でも、やっぱり視界には藤ヶ谷が入ってきて。
その90分間。ノートをとるのも忘れてずっと藤ヶ谷を見てしまっていた。



何よりも、藤ヶ谷が俺がこの講義を履修していたことを知っていたのかもしれないことに嬉しかったんだ。



あっという間に、講義が終わってしまって。
白紙のルーズリーフを見て、後悔が襲ってくる。


そんな絶望している俺の方に振り返った藤ヶ谷。
奥二重の切れ長い綺麗な瞳がこちらを捕らえた。そして、眉がだんだん寄っていく。



「･･･お前、ノート白紙って」


それは、俺の手元を見て発した言葉だった。
いたたまれなくなる。
肩を丸くして、藤ヶ谷を見れなくて、俯く。



「･･･だって。藤ヶ谷を見ちゃうんだもん」


本当に。嬉しいのに、迷惑なやつだ。
講義に集中させてくれない。


「･･･はぁー」


迷惑そうに明らかにため息を吐く藤ヶ谷。
いや、藤ヶ谷のせいじゃない。集中できないのは、こっちの問題で。


「ごめっ」
「なんなの？天然なの？」


･･･ん、藤ヶ谷のせいじゃないと続けて言おうとした瞬間、言葉と一緒に藤ヶ谷の手のひらが頭にポンと置かれた。


「自覚ある？」
「え？」
「オレを煽ってるって自覚」
「え、あおってなんか」
「何か。あの頃思い出すな。北山の視線が痛かったわ」
「･･･そ、そんなに見てねーし」


強がって。見てるくせに。
藤ヶ谷の影が近くなる。
耳元に寄せてくる藤ヶ谷の唇。
耳元で囁かれるメロディー。


「ここが、教室じゃなきゃ…キスしたのに」
「･･･/////！！！」


誰にも聞こえない声の大きさで。
沸騰するんじゃないかと、思うくらい一気に熱が顔に集まる。今、自分がやかんだったら、きっと100度超えてる。

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