昨日の約束

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千賀が実習が近いということで、中々予定が合わず、5人での集まりは約1ヶ月後になった。
藤ヶ谷の誕生日近く。今でも覚えてる。誕生日。
二階堂が店も決めて予約もしてくれた。あとは集まるだけ。

その1ヶ月の間、日に日に玉森は俺のそばから離れなくなった。藤ヶ谷とも緊張して顔を合わせられなくなってしまって。好きなのに。目を逸らしたり、自宅を出るタイミングをズラしてみたり。集まる日だって･･･殴り書きしたメモを藤ヶ谷のポストにいれたり。まるで小学生だ。


ここ数日で玉森と唯一、離れると言っても過言ではないこの講義の時間。


毎週火曜日の楽しみ･･･苦しみ？
藤ヶ谷も出席する講義の時間だった。
藤ヶ谷を見れるのは楽しみだけど、あの女の子と話しているのを見るのは苦しい。なんとも矛盾している感情を与えられる時間でもあった。


藤ヶ谷は、相も変わらずグループで受けていたのに。


ある日突然、音もなく一つだけ空いてる俺の前の席にひとりで座った。藤ヶ谷が。
グループから外れて何も言わずに座った。
机ごとに段差があるので、藤ヶ谷を少しだけ見下ろす形となる。
あ、少し寝癖か髪の毛跳ねてる。


･･･それより。これって。
小、中学校の時何度かあった配置。
二人列に並んで。くじ引きなのに、なぜが俺が藤ヶ谷の後ろの席になることが多かった…懐かしい後ろ姿。


よく、藤ヶ谷の寝癖をちょんっと摘んで遊んでたっけ。藤ヶ谷は少し拗ねるんだ。手を払って。


泣きそうになる。昨日のように覚えてる光景。
髪色もあの頃と違って染めて茶色になっている。


なのに、藤ヶ谷だった。


無意識にそのチョンと出てる寝癖を摘んでしまっていた。ハッと気づくと。
あの頃のように、藤ヶ谷は俺の手を払う。
こっちも見ずに。


･･･やばい。泣きそう。
こんなの初めてだった。興味深いと思っていた講義も全く頭に入ってこない。
目の前のやつしか目に入らない。


触れられるところにいる。それは、あの頃と同じ。


窓から見えるのは雨。今日はあいにくの雨だった。なのに気分は晴れていく。こんなにも空気はジメジメしているのに、ポカポカ温かくなっていく。

瞼を閉じれば、浮かんでくる。
優しい雨。
藤ヶ谷しか傘を持っていなくて。俺が下駄箱で困っていると当たり前のように差し出してくれた。
ふたりで相合傘をして、帰った道。藤ヶ谷、ちゃんと知ってるよ。俺が濡れないように･･･傘をこちらに寄らせていたこと。藤ヶ谷の肩が濡れていたこと。

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